野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

ホエールトーン第1幕は、2泊3日の合宿

ロンドンを出て、トットネスへ。電車で3時間ほど。電車の中で、ホエールトーン・オペラの録音などを聞いて、ちょっと予習。弦楽四重奏による野村誠牛島安希子作曲「オルガンスープⅡ」を久しぶりに聴く。これが、非常に良いので、「オルガンスープⅢ」を作りたいな、と思う。野村誠作曲の「オルガンスープ」はオルガン曲で、それを基に牛島安希子さんが書いた弦楽四重奏が「オルガンスープⅡ」。では、「オルガンスープⅢ」は、また、ぼくが書くのか、それとも新たな第3の作曲家が書くのか。どんな編成で書くのか、そんなことを考えながら、よく揺れる列車は、牛や馬のいる牧場を次々に通過しながら、進む。定刻より大幅に遅れて進むのは、予測通り。ようやく、海が見えてきて、到着間近。30分遅れで到着は、まさに想定通り。ヒュー・ナンキヴェルと再会。

ダーティントンは丘の上にあり、草原や自然に囲まれた素晴らしい環境の中に、数多くのスタジオ、劇場設備がある。今日からの3日間で、第1幕を集中的に作って、3日目の夜には上演する。ティーンエイジのミュージシャン20人と、ダンサー10人(このダンサーはロンドンからやって来た)、そして、ヒューとぼくとジュール(振付家)。みんなが、ダーティントンの宿泊施設で2泊3日の合宿をすることに。


3日しかないので、ハードと思っていたら、ヒューが、「3日もあって、贅沢」と言っていた。そうか、と彼のテンポを思い出した。インドネシアでのゆったりした時間感覚に馴染んできているので、彼のクリエイションのテンポを忘れていたが、この人は速い上にクオリティが高いのだった。

で、スケジュールを見ると、こう書いてある。

8日(金)

7:15pm-9pm:導入ワークショップ

9日(土)

9am-9:30am:ウォームアップ
9:30am-1pm:午前のリハーサル
2pm-5:30pm:午後のリハーサル
7:15pm-9pm:夜のリハーサル

10日(日)

9am-9:30am:ウォームアップ
9:30am-1pm:午前のリハーサル
2pm-4:30pm:午後のリハーサル(ゲネプロを含む)
5pm-6pm:本番

これって、ほとんど休みないではないか、、、。イギリス人、よく働くのよねー。

これは、ハードだなぁ、と思っていたら、ヒューが、
「ジュールなんかは、仕事というよりホリデー気分と言って、ワクワクしているよ」
と言う。要するに、みんな楽しみに集まっているということらしい。

で、今日のワークショップは、

ヒュー:20分程度
ジュール:20分程度
野村:20分程度

の3本立て。

ヒューは、
「これから、ここにいる知らない人から、名前と最近聞いた音楽について、聞いてください」
と言って、ワークショップはスタート。

その後、ボディパーカッション的なリズムのことと、声を伸ばすのをやる。ウォーミングアップのエクササイズのようでいて、実は、明日にやる「バナナケーキ・レシピ」や「どうやって実がなるの」への伏線になっている。最後に、3人ずつのグループで、ボディパーカッションと声によるピースを作ってもらう。これも、多分、明日、小グループで活動するための伏線。小グループの活動の後、ヒューが、
「グループで創作する時、誰か一人だけが発言していなかったか?一言も意見を言わなかった人がいなかったか?そのことを、ちょっと思い返してみてね」
ということを、さらっと言う。

続いて、ジュールがリーダー。いきなり、最初にやったエクササイズがいきなり面白かった。右左右左と7拍腰をふってステップを踏んだ後、エネルギッシュに「ハ!」と言って、手を前に出す。その後、6拍やって「ハ」、5拍やって「ハ」、4拍と「ハ」、3拍と「ハ」、2拍と「ハ」、1拍と「ハ」、1拍と「ハ」、1拍と「ハ」、1拍と「ハ」、というもの。この次にやったのが、ペアでやる「1、2、3」を交互にカウントするゲームも、1、2、3に当てはめた動きが面白く新鮮(1=拍手+右足踏み、2=ターン、3=半分しゃがみ+ちょっとした手の動き)。そして、その後やったのが、抱きつき鬼ごっこ。これは、鬼に抱きつかれた人が鬼になる、というもの。しかし、誰かと抱き合っている人には、鬼は抱きつけない、というルール。しかも、同じ人とは3秒以上抱き合ってはいけない、というルール。で、このゲーム、始まると、とにかく近くにいる人と抱き合い続けなければならない。で、みんなキャーキャー言いながら抱き合っているのだけど、ジュールはこれを静寂でやるように、と言う。結局、最後まで、キャーキャー言いながらだった。

そして、その後、ぼくの番、「門限ズ」の説明をして、福岡でやった「10秒リレー」をやってもらう。つまり、

1)10カウント
2)即興で話す
3)即興でピアノ
4)即興でダンス


音楽が専門でも踊らなければいけないし、ダンスが専門でもピアノを弾かなければいけないし、さらに、演劇が専門の人はいないけど、話さなければいけない。そして、話もダンスも、前の人の内容を引き継ぐのがルール。前の人の話を引き継ごうとすると、おかしなことになっていく。タコがチョコレートが好きで、チョコレートを食べ過ぎて太ってしまい、、、、と変わったストーリーになっていった。まるで、ホエールトーン・オペラのように。こうやって、前の人と話をつないでいく遊びを、英語では、consequencesと言う(日本語にはこれに対応する言葉がないなぁ)。ぼくは、consequencesの好きなところは、複数の人のコラボレーションで、当初のアイディアから逸脱していけること、と伝える。一人では自分の知っている範囲内の表現になるのに、他人の表現につなげていくうちに、自分一人ではできないものが生まれてくる。このことが、コラボレートの醍醐味だ。

いよいよ、明日から本格的に「ホエールトーン・オペラ」。