野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

おまけ(野村誠×北斎、宣伝用の文章)

江戸時代の音楽を想像すること。北斎が描いた音楽を想像すること。そして、想像から逸脱して新しい音楽を創造してしまうこと。「野村誠×北斎」は、北斎の描いた音楽から着想を得て、音楽を創造していくプロジェクトです。

(ぼくにとって)作曲は、体験してみたい音楽を想像することから始まります。例えば、「お湯の音楽会」、「お年寄りとの共同作曲」、「動物との音楽」、といった音楽を想像するのです。そして、その音楽に名前をつけることができた時、音楽たちは一人歩きを始め成長していきます。

北斎漫画に描かれている四重奏。尺八と箏と胡弓と木琴。この編成の音楽を一緒に想像していきましょう。そして、これを何と名づけましょうか? (野村誠

 1760年に生まれた葛飾北斎の絵から、当時の音楽を想像する。あ、これは浄瑠璃、こっちは三味線のお稽古。当時の音楽が蘇ってくるようだ。ところが、どうしても想像がつかない不思議な絵がある。インドネシア風の木琴、中国風の琴、そこに日本の尺八と胡弓が加わる四重奏の絵だ。しかも、やけに楽しげなセッションのように見えるのだ。
 うーむ。江戸時代に、こんな異ジャンル混血の音楽があったのだろうか?それとも、異なる場面で北斎が見た別々の音楽を、紙の上で遊び心でセッションさせただけなのだろうか?どちらにしても、ぼくはこの絵の音楽を聞いてみたい、自分なりに再創造してみたいと思った。
 早速、専門家に質問してみると、次から次に面白い話が湧き出てくる。木琴を演奏しているのは、当道座(検校とか座頭などという名称でも知られる)視覚障害者のプロ音楽家らしいこと。1804年に初演の歌舞伎「天竺徳兵衛韓噺」で木琴が登場し、江戸で木琴が一躍大ブームになったらしいこと。木琴に、用途不明の横棒が描かれていること、などなど。
 北斎生誕250年の今年、この絵を手がかりに、2010年の東京で音楽が誕生する瞬間に立ち合いませんか?江戸の創造性や遊び心に敬意を示し、その精神を継承し、現代のぼくらの文化として発信していく。2260年の浅草の人々に、250年後に笑ってもらえるような、とびっきり面白い作品を、ぼくは提示しちゃおうと、思っているのです。(野村誠