野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

今日のポカポカ

東京を出て、京都に戻りました。今晩は、フェニックスホールで、御喜美江さん、グジェゴシュ・ストバさん、大田智美さんによるアコーディオンのコンサートを聴きに行くのです。ぼくの「F&I」も久しぶりに聴けるし、ワクワクです。

京都の自宅に着いたのが14時50分ごろ。ご機嫌に家に入っていくと、加奈ちゃんが、「今日のコンサート昼だった!」と言っている。ぼくは頭の中が「????????」。なんでも、14時開演、ぼくの曲が演奏されるのが15時20分ごろの予定。で、加奈ちゃんはタクシーに乗って、新幹線に乗って、とわけの分からないことを言っている。今新幹線に乗ってやっと家に帰って来たのに、次の瞬間、新幹線に乗るって、どういうこと?

とにかく、後半の2曲目に演奏する曲をアンコールでやればギリギリ間に合うから、タクシー乗って新幹線に乗ってタクシーに乗って来てください、と言われて、とにかく行きました。

タクシーに乗ったのが15時少し前。京都駅に着いたのが15時8分ごろ。15時12分発の新幹線に飛び乗り、15時27分新大阪着。そのまま走ってタクシー乗り場に行って、15時30分ごろタクシーに飛び乗り、15時45分ごろフェニックスホールの手前の赤信号に引っかかり、そこから猛ダッシュで歩道橋を駆け上がり、ビルの1階で、「野村先生ですか、こちらです」と声をかけられました。ああ、間に合ったんだ、少しゆっくりできるかな、と思いながら、そのままエレベーターに飛び乗り、エレベーターを降りると、次々に、こちらへ、こちらへ、と言われる方に走るはめに。スタッフの人が相当急いでいます。あ、智美ちゃんとグジェゴシュだ。ゆっくり握手を交わして挨拶をしようとするが、その間もなく、さらにこちらへ、と言われた方に一歩踏み込むと、そこは、舞台でした。ぼくは、突然、照明の当たる中、観客から拍手を浴びせられました。はっきり言って何がなんだかわかりません。舞台には御喜美江さんがマイクを持ってしゃべっていて、ぼくとのトークコーナーが始まりました。

どうやら、曲順を入れ替えた上に、最後の曲になったにも関わらず、ぼくが到着したいのでトークで引き伸ばしてくれていたところに、ぼくが息を切らしながら到着したようです。

そして、アコーディオンデュオの「F&I」が始まりました。いきなり夢の中に飛び込んだようなシチュエーションのぼくは、あまりの演奏の美しさに、ますます夢の中にいるようなわけ分からない気分のまま、演奏を聴いていました。出だしが、本当に本当に美しかったのです。これまで聴いていた演奏は、各声部がそれぞれ聞こえてくるというよりも、全体のハーモニーを聴かせていたような感じでしたが、それぞれの声が聞こえてくるのです。幸せでした。

トークの時に思い出したのですが、作曲のメモ書きのようなスケッチの多くは、曲に採用されずにボツになって捨てられていきます。それぞれの素材に良さがあったとしても、曲の中に使われずに消えていく素材は多いわけです。でも、そうしたメモ書きをぼくは捨てられずに紙の山がありました。そんな中、素人の人と作曲のワークショップなんかをやると、そんなに次々にボツにできないんですね。参加者の人がせっかく考えてくれたものを次々にボツにしたら、そんなつもりはなくっても、その人の人格を否定してしまうように勘違いされそうだから。そうすると、ワークショップでは、まずまずのアイディアとか、そんなに面白くなさそうなアイディアでも採用して、そこから名曲を作ろうとするわけです。で、ワークショップやってたら、大したことなさそうだと思えるようなアイディアでも、想像以上の名曲ができちゃったりするわけです。ボツにしなくていいじゃん!!!そう思うようになりました。

で、自分がボツにしていたスケッチにも、やさしい眼差しを向けてみたんです。これもこうすれば曲になるんじゃない。50個くらいのメモ書きを、別に作品にする義務もなく、毎日眺めては、ちょっと書き足したりしてたんです。毎日、朝顔の植木鉢に水をやっている程度の時間でした。そうやってたら、花が咲いちゃった曲が「F&I」なんですね。ちなみに、その当時、そうやって育ててたメモ書きから、「たまごをもって家出する」というピアノ曲に使われた素材もあります。作品にするつもりもなかった上に、メモとして消えちゃったかもしれない音楽が、ちゃんと生き残っていることじたい、なんだか、たんぽぽのような生命力を感じます。

で、鍵盤ハーモニカ4重奏でやっていたのですが、2001年のアコーディオンとヴァイオリンとチェロの「How Many Spinatch Amen!」という曲の初演の時、曲を大切にしてもらってうれしくなって、アコーディオンデュオバージョンを書いてプレゼントしよう、と心に決めたのです(アコーディオンとピアノもプレゼントしようと思っているのですが・・・。鈴木潤さんとの鍵ハモ+ピアノの即興演奏をもとにした曲をアレンジしたいと随分前から思っているのに、その時が来なくて残念です)。

「F&I」は、再演されるどころか初演の予定もなく勝手に作曲してプレゼントしたので、音になるかどうかも分からなかったのですし、仕事の合間に書いたアレンジでしたが。これが、こんなに何度も何度も演奏されて、そして、何度も演奏したからこその演奏が聴けて、幸せで、途中は、少しうるうるしてしまいました。

それにしても、コンサートの時間を勘違いしたために、アコーディオン3重奏の演奏を全く聴くことができず、すごく残念です。アコーディオン3台というサウンド自体を、聴いたことがないのです。

で、今日の経験は、やっぱりブログ音楽として作曲しておくべきかな、と思います。