野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

エイブルアート・オンステージ第3期の面接でした

今日は、エイブルアート・オンステージ第3期の面接でした。16団体の代表者と面接をしました。1時間に4団体ずつやりました。1団体ずつ聞くのではなく、4団体それぞれにプレゼンしてもらった後に、互いにディスカッションをしたりするような場を目指しました。皆さん、お疲れ様でした。

とにかく、プレゼンが下手な人が多い、と思いました。他人に自分のことをプレゼンするのに、時系列で自分史を語っていては日が暮れてしまいます。新聞記事というのは、見出しだけ読んでも、だいたいのことは分かる。第1段落を読むと、もう少し分かる。続きを読むと、もっと分かる。もっと詳しく知りたい人は、もっと続きを読む、という形に書かれています。こうやってプレゼンする時にも、最初の15秒だけ聞いても、その人が何をしようとしているのか、分かるように話すことが大切だと、ぼくは思いました。

それともう一つ、多様な聞き手を前提に話すということです。アートに詳しい人も全く詳しくない人も聞いている、福祉に詳しい人も詳しくない人も聞いている・・・など、多様な聞き手を想定して話すことだと思います。

なかなか言葉で説明の難しいことを、自分とは全く違う価値観を持つ人に説明してきた経験があれば、自然にプレゼンの力はつくはずです。逆に言うと、プレゼンがうまくいかないのは、それだけ、自分と似たジャンルの人とだけ付き合ってきた、あるコミュニティの中でだけ通じる言葉だけを使ってきた、ともとらえられます。それが悪いと言っているわけではありませんが、エイブルアート・オンステージに関わるということは、違った価値観、違った常識を持った人同士で、どうやってコミュニケーションをとっていくか、ですから、当然、そういうことに自覚的であるべき、と考えるわけです。

それと、企画書を書くというのは、形式上体裁を整えることではありません。企画書を書くことで、言語化しにくい漠然と感じていることを、より明確に言語化し、コンセプトをもっと突き詰めるチャンスだと思うのです。

94年にぼくは、British Councilの助成金を得て、1年間イギリスに住みました。その時の面接には、ぼくはCDラジカセを抱えていき、自作の英文の小説も持参で行きました。音楽家である野村は、すべてを言語でプレゼンする必要はありません。自分の様々な表現で、面接官は面接の途中で野村ファンになってきて、途中で、ぼくの小説を少し読んだら、「これ読みたい、コピーをとってもいいか」と言って、席をはずして、コピーをとりに行ったくらいです。

ぼくは1人のアーティストとして、審査員であろうと、自分のアートの鑑賞者だと考えています。その場にいる人が、自分の作品に触れる貴重なチャンスなわけです。そういった場で、自分のアートやアート観を提示したいと思うわけです。

応募して下さった方々、応募していただいたこと、大感謝です。それと同時に、もっとプレゼンできるようになって欲しい、と強く思います。皆さんの思いや考えが、伝わっていかない限り、世の中は変わっていかないのですから。

ぼくは何度も言いました。当たり障りのないプロジェクトを通す気はありません。当たり障りのある部分をアピールしてくださいと。当たり障りのある部分をどうやって実現していくかが、大切なところです。