野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

徳島県立近代美術館

徳島県立近代美術館でのP−ブロッのコンサート

吉森信くんが参加できないので、しばてつ、鈴木潤林加奈野村誠の4人で演奏。展覧会場の奥に、椅子が数十脚、お客さんいっぱい待っている。子どもから年配の方まで、いろいろ。まず、1曲目に「ビネール」。PAなしで、とっても広いスペースなので、バス鍵ハモの音が通りが悪い。潤さんが顔を真っ赤にしながら必死になって音を届かせようと吹いている。バスが大変そうだから、音量を落として吹こうかと思うけど、あまり弱く吹いても力強さに欠けるし、まあ普通に強く吹いていた。そこで潤さんが必死に吹いているのが、よい緊張感を作ったよう。ちなみに、いつも吉森くんがソロをするところで、加奈ちゃんがソロをして、加奈ちゃんのソロの後、しばさんのソロの前にぼくがアドリブをすることになった。加奈ちゃんのアドリブが、野村誠風な部分、吉森風な部分、しばてつ風な部分があって、その後に自分が演奏すると、野村風が続いちゃう気がして、困った。自分の前に自分風のアドリブが入るのは、大変やりにくい。2曲目は「FとI」。この曲は、結構遊びながら吹いた。あんまり遊びすぎると、アンサンブルが崩れそうになったりして、どの程度遊ぶかを、押したり引いたりしながら、ニヤニヤして演奏していたかもしれない。3曲目は「犬が行く」。4人で演奏すると犬の鳴き声とビートの両方が十分出せるかな、と演奏する前は思ったけれど、この曲は今までで一番いいかも、と思うくらい自由自在になっている感じはあって、お客さんも相当笑っていた。ここまでが、P-ブロッのレパートリーコーナー。
そして、ここからが絵を音にするコーナー。まず1曲目が、マルセル・デュシャンの「セカンドステート」をしばさんが作曲したもの。絵の上に線を引いていって、線の交差したところで何かイベントが起こる曲で、そのイベントは、速いフレーズ、スタッカートの単音のどちらかに限定されていて、それ以外の時は持続音。常に音域を変化させる曲で、全員がソプラノ、アルト、バスの3台を使った。この曲が非常にスタティックな曲で、今までのP-ブロッになかったような作品。楽譜を巨大なパネルにして、全員で一つの楽譜を見ながら演奏した。小さな子どももいるし、演奏中にお客さんからの雑音も多かったけど、それも音楽の一部に聞こえる曲になっていた。この曲、ぼくはかなり気に入った。続いて2曲目は、カンディンスキーの「生き生きとした白」をぼくが作曲。カンディンスキーの絵の下に座り込んで演奏してみた。お客さんからは、この絵はどう見えたのだろう?この曲は、まだまだ、もっと良い演奏ができるようになるだろう。これから徐々に自分たちのものにしていこう。なんとか初演を乗り切った感じの演奏。初演らしいたどたどしさと初々しさがあったかも。3曲目は、「牝鹿〜ローランサンの森で鹿がカヒョー」(林加奈作曲)。この曲は物語的なアプローチなので、演奏していると、こちらも絵から飛び出した鹿になった気分がした。絵を演奏するのと、絵になるのとでは、随分感覚が違う。加奈ちゃんの作る曲は、「犬が行く」もそうだが、独特のテイストがあって、演奏者が絵そのものになれる音楽で、演奏していて不思議な感覚があって面白い。こういう作曲をする人は他に知らない。
ここで、P-ブロッコーナーが一度幕を閉じ、ワークショップ参加者による声のアンサンブル。1曲目がホックニーの描いたストラヴィンスキーのオペラのポスターを演奏。この曲は、楽譜の解釈の仕方があまりにもシンプルでストレートだったので、絵と音との関係をお客さんもダイレクトに感じることができただろうし、何か曲自体の持つ力強さがあったように感じた。2曲目は、お客さんにも移動してもらって、ケージの版画を演奏。これが、また美しい合唱になった。ワークショップで作ったこの2曲、現代音楽の多くの合唱の駄作よりも、とても面白い曲になっていたと、ぼくは思う。
さらに展示室を移動して、P-ブロッによる「音楽会」という絵のお客さんに捧げる曲(鈴木潤作曲)。これは、絵の下に床座りして演奏。主役は絵なのだ。本番はややテンポが速めだったけど、こういう演奏もありかな。この曲は、ぼくも絵を見ながら聞いてみたかった。お客さんの顔と本当にマッチしているように感じたのは、ぼくだけかな?
即興コーナーは、どの絵を音にするか、その場で観客に選んでもらった。よりによって、森村泰昌の作品。そういう意味で、今まで取り組んだ絵とは全然違って面白かった。
最後に、クレーの「子供と伯母」。オーボエクラリネット篳篥も加わった豪華バージョン。P-ブロッメンバーとワークショップ参加者による。この曲は演奏している時は自分のパートで手一杯で何がなんだか分からないが録音で聴くと、本当に多層的で面白い。
その後の打ち上げは、本当にみんなで語り合い続ける場になった。徳島でのワークショップ、コンサートはこれで終了だけど、終わったよりは始まった気分で、また来たいと思った。とにかく、ここにいた人たちがすごくいい。
で、名残惜しい中、高松に行って、着くなり深夜のうどん。まずは、川福のうどん。きじょうゆで食べて、メッチャうまい。
爆睡!