野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

高松うどんと音楽

高松では、岡部春彦さん、かつみさんに、すごいスケジュールを組んでもらった。
まずは、午前中にうどん屋3軒はしご。「がもう」100円のかけうどん、メッチャうまい。続いて、うどんの聖地とも言える「中村」で150円のきじょうゆ。何だ、このとんでもない麺のテクスチャーは!感激のあまり言葉を失い、おかわり。最後は、「山越」でのかまたまうどん。うわっ、卵と麺の絶妙なハーモニー。そこで、デザートにソフトクリーム。すごく美味しいうどんが150円なのに、普通のソフトクリームが200円で、なんだか不思議な気分になる。
それからFM高松の収録。生演奏は「この道」を。トークはP-ブロッ4人でああでもないこうでもない、とやったから、どんなだったろう。5日の午前11時に放送でした。パーソナリティーの佐野さんは、奥田扇久さんの編集学校の生徒らしい。こんなところにも松岡正剛コネクションが。久しぶりにあの編集おじさんに会いたい気分。
それから、佐野さんに連れられて、地元の呉服屋さんの社長さんと面会。高松市内にビオトープを作るなど、色々、高松で環境と暮らしを豊かにしたいと願い実行している人のお話。そんな話を聞くのと、讃岐うどんのお店に行くのとでは、田園風景の真っ只中に出没するうどん屋さんの方が説得力があると感じたけど、社長さんにも頑張って欲しいな、と思った。
それから、高松駅前で路上演奏。P-ブロッ4人+寺内大輔+岡部春彦による。曲目は、UFO、サザエさんなど路上演奏レパートリーを次々に演奏。それに寺内くんや岡部さんが絡んでくる。その絡みがなかなか面白い。道行く人の立ち止まる表情、携帯で写真に収める人、いろいろ見ていて面白かった。1時間近く白熱した演奏。

さて、いよいよコンサート本番。高松では、うどんが食べれればそれでいいと思っていたのに、うどん食べるついでにちょっとライブをしようかな、などと考えているうちに、岡部さんがセッティングしてくれて、でも、会場もサンポート高松第1リハーサル室だし、内輪で集まる感じかなと思っていたら、岡部さん宣伝頑張ってくれて、約70人のお客さんが、土足厳禁の第1リハーサル室に集まって来た。すごいすごい。

まずは、P-ブロッによる4曲。「この道」、「ビネール」、「犬が行く」、「FとI」。続いて、寺内くんによる即興。寺内くんは、99年に若尾裕さんや須崎朝子さんが企画している「音と遊ぶ、クリエイティブ・ミュージック・フェスティバル」で会った。ぼくのワークショップで、参加者の人に作曲の仕方も楽器の演奏の仕方も忘れてしまった痴呆老人作曲家役を演じてもらうパフォーマンスをしてもらったが、その中で目立っていたのが寺内くんだった。その時以来、6年ぶり。今は即興音楽と作曲を追求するためにアムステルダムに在住らしい。
寺内くんは、リコーダーでちょっと即興した後は、ボイスパフォーマンス。ちょいと演劇チック。言葉はないけど、悪代官風の声色になったり、そこにちょっと片岡祐介的ななんちゃって色を感じるけど、片岡さんは「なんちゃって」を強調するために、わざとクオリティを落としてやるが、寺内くんは「なんちゃって」を言いたいわけではないので、クオリティをわざと落とすことはしないで、良質にまとめようとするから、そこは片岡さんとは、違う。なんにしても、お客さんの笑いをいっぱいとっていた。同じボイスでも、足立智美くんの追求の仕方だと研究者っぽい感じがするけど、この人の芸風は、芸人風と言うと言い過ぎかもしれないが、サービス精神やエンターテインメント性がある。その後、静かなピアノソロを弾いていた。広島で、近藤譲に作曲を師事し、若尾裕主催のフェスティバルに参加して即興や音楽ゲームなどに触れ合って育った作曲家。2つの全く違った根っこがどうやって一つのものになっていくのか、楽しみだな、と思った。いつか、P-ブロッにも曲を書いてもらわなくっちゃ。
続いて、岡部さんのテナーサックスのソロ即興。フリーインプロだが、とても美しい音楽だった。この曲の時だけは、客席での雑音が気になった。観客にも完全な静寂で、できれば照明も真っ暗にして聴きたいと思った。岡部さんの音の世界以外の情報を全て消し去って聞くのが、一番いい聴き方の気がしたのだ。
休憩の後は、篳篥+鍵ハモで雅楽的な曲。鍵ハモのなんちゃって笙が、篳篥と一緒だと、あんまりなんちゃってじゃなくって、そのまま気持ちよく響いた。とにかく、この楽器のロングトーンのアンサンブルは、美しく響くのだ。
その後、色んな組み合わせの即興セッション。最初は、お客さんのリクエストで加奈ちゃん+寺内くん。ぼく的には、この二人の組み合わせだと、簡単に成立しやすいだけに、逆に寺内君と潤さんのような組み合わせをやってみたかったが、お客さんのリクエストでいったので、仕方ない。加奈+寺内は、観客の笑いを取りながら進行。面白くクオリティも高いパフォーマンスなので安心して楽しく見れるし、逆に言うとある程度予想される範囲内なので、逆に加奈ちゃんがピアノで近藤譲風に弾くとか、何か全然違った切り口の部分も見てみたかったかも。
続いて、岡部さんと潤さんのデュオ。岡部さんがディジリドゥー、潤さんがトイピアノだった。二人の演奏も、がっちり四つに組んだ感じで、美しい音楽になった。そこに留まり続けず、そこからどうずれていくのかを少し聴いてみたい気がした。子どもがでてきてホワイトボードに文字を書き始めたので、二人の背後にホワイトボードを持っていったが、二人は微動だにせず、演奏を続けた。その背後で文字を書く子どもの図が面白かった。
続いて、全員でのセッションになった。最初に、しばさんと岡部さんのフリージャズ風なピアノとサックスのデュオから始まった。二人の音楽が噛み合っている。とてもいいフリーの即興があった。そこに大きなギャップがないし、別にギャップがあってストレスを生み出す必要もないのだが、前の二つの即興もギャップがなかったので、もっと隔たりがあってもいいのでは、と感じた。気づいたらぼくは、サックスのボタンなどに楽器をぶら下げていた。サックスのラッパ部分にも太鼓を差し込み、色んなものをサックスにぶら下げた時点で、音楽が動き始めた。もうどっちに行くか誰も分からない。岡部さんは観客の方に向かって歩き始め、お客さんがサックスからぶら下がっている楽器をガンガン鳴らし始め、ガラガラと崩れ去っていくような瞬間があった。気がつくと、岡部さんはゴジラになっていた。
そんなこんなで長大な即興は、どんどん進む。途中で、我関せずと竹琴を叩く寺内くんにちょっかいを出したくなってしまい、頭の上にみかんを3段重ねて積んだ。ここの場面で、ずっと硬派にいくと決めていた寺内君は笑ってしまった、と後で悔しがっていた。
そのうち、同時多発の即興演奏が、全て観客の前だけで行われているのが変だ、と思って、でも自分が動くの疲れるから、加奈ちゃんと寺内くんに走ってもらおうと思って、走ってと命じてみたけど、そんな誘いに乗ってくれるわけもなく、結局、自分が走ることに。みんなの楽器を奪い、そのまま走って客席の後ろに楽器を置いて、また前に戻って、またまた走って楽器を奪い、とドンドン楽器を奪っては走って客席の後ろに楽器を移動した。ずっとずっと走り続けた。こんなに走ったのは、中学生の持久走の測定の時以来かも。息が切れても、いつまでも楽器があるから、何度も走り続ける。そうやって走り続けているうちに、ステージ後方に岡部さんが移動してきていて、竹琴を叩いている。その横では、観客の一人であるマチさんがオーボエを組み立てている。ぼくは、ここで走るのをやめて、太鼓を手に取り演奏を始めた。ところが、太鼓を叩いているうちに、後ろから見る観客のパイプ椅子を叩きたくなり、椅子を叩くとお客さんがくすくす笑うので、そのままお客さんの肩を叩いたりして、太鼓と椅子とお客さんとを叩きながら演奏。途中でノリのいいお客さんが叩き返してきたりした。空間全体で同時多発なパフォーマンスになってきた。席によって見えるもの聞こえるものが大きく異なる状態になっただろう。
そんなこんなで約30分の即興が終わらないのを、寺内大輔作曲の「耳の音楽」に無理矢理移行。この曲は、各自が自分の耳を触って、自分にだけ聞こえる曲を演奏する、というもの。あれだけ色んな音を聴いた後に、この曲というのは、とてもいい流れだ。
最後に、今年の7月に、しばさん、ぼく、岡部さんを訪ねたデンマークの即興音楽家・作曲家で音楽療法家のカールの「strategy 1a」という作品を全員で演奏。ぼくは、みかんでピアノを弾きたくなり、みかんを鍵盤上に落下させて演奏。これが、思った以上にいい音がした。
終演後は、打ち上げに黒船屋というライブハウスに行った。ここでも1曲演奏したら、全員にビール一杯ご馳走するから演奏して、と言われて演奏。そしたら、他のお客さんからも投げ銭が4000円ほど集まり、飲み食いしたお金がほとんど浮いてしまった。
深夜2時、うどん屋に行きたいので、鶴丸に。う〜ん、一日の終わりはやっぱりうどん。