野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

宇土市太鼓収蔵館の名物館長

里村さんがオフなのでお出かけ。宇土市太鼓収蔵館は、コロナ禍に一度行ってみたが当時は休館していた。コロナも明けて開館しているようなので、とりあえず地域の文化を勉強する意味で行ってみようと思い出かけた。

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巨大な大太鼓が収蔵されているが、なんと自由に叩いていいという。そして、館長の坂本さんが実演してくださり、さらには、教えてくださる。坂本さんの太鼓の腕前は、相当なものだ。こちらが興味を持って話を聞いていくと、坂本さんの太鼓に関する知識は非常に奥深く、しかも、宇土の太鼓のことだけでなく、それ以外の太鼓のことや和太鼓のコンクールのことまで詳しい。気がつくと、どんどんレクチャーが続き、色んな叩き方を伝授していただき、死ぬ気で全力で叩いてヘトヘトになる叩き方のご指導を受けたり、ついには里村さんと二人でアンサンブルしたりもした。閉館時刻を1時間以上オーバーして坂本さんが話し続けてくれて、入館料100円は安すぎる。お客さんが来たらぜひ連れて行きたい。

 

科学館、博物館、美術館などで、『ハンズオン展示』として、実際に触れる展示をすることがある。また、学芸員や鑑賞ボランティアによるギャラリートークなどを交えて、対話型で鑑賞することもある。また、展示への理解を深めるためにワークショップなどを実施することもある。この太鼓収蔵館は、江戸時代から伝わる文化財である太鼓を物として展示して見せるだけでなく、太鼓を演奏するという行為自体を実際に体験する。江戸時代から伝わる文化は、太鼓という物だけにあるのではなく、太鼓を通して人々が営む行為自体にもあるのだ。そのことを、理屈抜きに体感できる画期的な施設である。それも坂本館長の実演のおかげである。この館長は只者ではない。また、来たいと思ったし、宇土の太鼓文化をもっと知りたい、と思った。

 

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同じ宇土の獅子舞の動画を見てみたが、銅鑼が鳴っていて、熊本は中国大陸に近いだけあって、音楽も中国に近いなぁ、と思う。

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地域の芸能リサーチ、少しずつ始めていきたい。

肥後の琵琶師 近世から近代への変遷/天吹/遊び場について

安田宗生『肥後の琵琶師 近世から近代への変遷』(三弥井書店)読了。肥後琵琶を始めて、もうすぐ2ヶ月になる。熊本大学名誉教授の安田宗生先生がまとめられた本は、肥後琵琶について大枠をつかむのに、とても良い本だった。近代の肥後琵琶は、筑前琵琶の影響も受けているが、熊本出身で九州を中心に全国で活躍した講談師の美當一調(1847-1928)の軍談に影響を受けているとのこと。美當一調のwikipediaを見ると、「肥後琵琶の形式を講談に取り入れた」とあるので、肥後琵琶が美當一調に影響し、美當一調が肥後琵琶の山鹿良之さんに影響した、ということか。美當一調の音源も入手して聴いてみたいと思った。

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熊本に住んでいて、九州で色々リサーチしたいと思っているところから、肥後琵琶に出会った。盲僧が演奏する琵琶から連想するのは、虚無僧が演奏する尺八である。九州における尺八ってどうなんだろう、と思ったら、薩摩に伝わる天吹という尺八に似た楽器の存在を知った。

 

明治になると郷中教育を受け継いだ「学舎」の青少年を中心に琵琶・天吹をかじらない者はいないというぐらい盛んでしたが、明治30年ごろ、勉強の妨げになるとして禁止令が出されことをきっかけにして一気に衰微し

 

とのこと。勉強の妨げになるほど熱中し禁じられた天吹、一方で明治に全国に広がった薩摩琵琶の対照的なこと。天吹のことも、もっと知りたくなった。

tenpuku.net

 

里村さんが休みなので、スイーツを食べたり、話を聞いてもらったりもした。誤解を恐れずに書くと、「学び」という洗脳に毒される前の子どもの「遊び」性に基づく芸術音楽の解体=創造の場を作りたい、という欲望がある。子どもがいる場所の多くは、教育の場であることが多く、子どもたちの中で「遊び」が貧困化しているのではないか、という勝手な危機感もなくはなく、そして、ぼくは「遊び」が大好物なので、そうした「遊び場」を作りたいと願っている。それは、ぼくにとって渇望する場であり、そうした場を必要とする人もいるであろうと思う(『だじゃれ音楽研究会』は、その好例だと思う)。それを熊本で作れないか、そのためにどうすればいいのか、について考えている。それと、資本主義をどう卒業するかと、自分がどういう生き方をするかは、連関してくると思うので、その辺が絡まり合って分からなくなりそうなので、そのことを日々考えている。肥後琵琶弾きは旅芸人ではあるので、旅芸人のことも考える日々であり、と同時に、遊び場をつくる=場所を開く、ことについても考えている。少しずつ、言葉にしていき整理したい。

 

 

高松市美術館の開館・閉館の音楽/ラヴィ・シャンカル

高松市美術館の開館・閉館の音楽をまもなく公開するということで、公開にあたっての作曲者のコメントを求められていたので作文する。この音楽が毎日美術館で流れると思うと、嬉しい。

 

Oliver Craske著『Indian Sun -The Life and Music of Ravi Shankar』読了。シタール奏者/作曲家のラヴィ・シャンカルの92年にわたる生涯を描く600ページを超える大作で読み応え十分だった。

www.olivercraske.com

「世界のしょうない音楽祭」で田中先生のシタールに毎年触れていたので、2020年にラヴィ・シャンカル生誕100年なので、良い機会だと思って購入したのだが、他にも読みたい本がいっぱいあって後回しになっていた。いざ、読み始めてみると、予想以上に面白くびっくりした。そもそも、子どもの頃はお兄さんの舞踊団の一員として世界中をツアーしていて、ダンサーになるつもりだったことも驚きだった。若い頃は映画音楽の仕事をいっぱいやっている。欧米で演奏し始めた頃は、解説を加えたり、西洋人向けの構成にして分かりやすく工夫したりした。ビートルズジョージ・ハリスンがラヴィのシタールに惚れ込み、ロックの世界でも一躍有名になる。シタール協奏曲は何曲も書いていて、オーケストラとの共演も多い。ヴァイオリンのメニューインと共演したり、ジャズのジョン・コルトレーンの共演したり越境コラボも多く、尺八の山本邦山と六段もやっている。パリで採譜の助手についたのがフィリップ・グラスで後に有名になったグラスと共作。女性との恋愛も相当で、娘の一人は歌手のノラ・ジョーンズ。別の娘はシタール奏者のアヌーシュカ・シャンカル。90歳過ぎても、毎日練習は欠かさなかった。

 

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健康診断/武田力さんと会う

保健所で行われている健康診断を受けにいく。昨年度はバタバタしていて受けそびれてしまったので、2年ぶり。

 

アーティスト/民俗芸能アーカイバーの武田力さんがこの週末、家族と熊本に戻って来ておられると聞き、お宅にお邪魔する。

 

yokohama-sozokaiwai.jp

 

コロナ禍にオンラインで対談をさせていただいたことがあるが、対面でお会いするのは初めて。初対面なのだ。ぼくは、肥後琵琶のことを結構語り、そのことに対して、朽木の六斎念仏踊りの話を聞く。六斎念仏踊りを、一度見に行きたいと思った。

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震災前の熊本の雰囲気の話も聞く。古い商店などが倒壊、半壊などで、震災後に一気に高層マンションが増えてしまったそうだ。個人商店が減り、チェーン店が増えていく。そんな世界に住みたいわけではないが、資本主義という仕組みに則っていると、気がつくと、「便利でつまらない世界の消費者」になるように仕向けられている。武田力さんは、そこに違和感を抱き、資本主義によって抹殺されようとしているものに目を向ける人だと思う。

 

ぼくは、「不便でも創造的に生み出す活動者」でありたい。いい加減、資本主義を卒業しても良いはずなので、資本主義から卒業するためのアートをしていきたい。熊倉敬聡が『脱芸術/脱資本主義論 ー来るべき〈幸福学〉のために』を著してから四半世紀が経とうとしているが、脱資本主義への道はまだまだだ。

 

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それでも、イギリスのコミュニティ音楽の考え方、東南アジアで出会った多民族共存のための音楽創造、分断を無化するための『だじゃれ音楽』の実践、伝統とエンタメと権力との折り合いをつけてきた相撲に聞く『相撲聞芸術』などを経て、二項対立を回避し暴力を行使せずにパラダイムシフトする足掛かりは少しずつ作れている。

 

熊本に、ダンサーの柿崎麻莉子さんも住んでおられ、スペースも開かれていると知る。今度、訪ねてみよう。少しずつ自分にとっての熊本を描けていくといいなぁ、と思う。

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長崎次郎書店に寄ってから帰る。こだわりの選書が見られる大変素晴らしい老舗の書店であるが、6月から休業との告知。資本主義を卒業したいと改めて思う。では、どういう暮らしをして、どうやって食べていこうか?そのことを根底から考えることが、ぼくにとっての作曲だ。忙しくならないぞーー!!!

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American Music in the twentieth century

バンコクのAnant NarkkongのSNS投稿を見ると、彼はアメリカに1ヶ月滞在するみたいだ。何するのだろう?南川朱生さんのご紹介で繋いでもらったアメリカの鍵盤ハーモニカ奏者David Brancazioとやりとりをしている。彼はケンハモ奏者であるだけでなく、spontaneous compositionのワークショップをし集団即興的な音楽ゲームを考案し実践したり、コミュニティ・ストリートバンドthe Boston-Area Brigade of Activist Musiciansで活動したりもしている。面白い。ということで、アメリカについてなのだが、アメリカの作曲家に関する本、Kyle Gann『American Music in the twentieth century』読了した。

 

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アメリカの20世紀の作曲家について概説する本で、20世紀初頭から1990年代まで、とにかく多くの作曲家を紹介しまくってくれる本で、もちろん知っている比較的メジャーな作曲家の話が多いけれども、この本をリスニングガイドとして検索していくことで、随分新たな出会いがたくさんあった。

 

創作楽器のSkip La Planteとか、

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Mikel Rouseのトークショーの形態のオペラとか、

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Janice Giteckのガムランにインサピレーションを得た作品とか

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別府/香港の高校生たちとのワークショップ

草本利枝さん、岡本晃明さん、里村真理さんと打ち合わせ。別府で何かプロジェクトができないか、色々アイディアを飛びかわせる。別府の片岡祐介さんを訪ねたのは2年近くも前なのか。

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香港のCCCDの企画による高校生たちとのオンラインワークショップ。zoomだと、どうしても音がうまく伝わらないので、事前に自分達の演奏を動画で送ってもらうことになった。各自が作曲した曲を事前に聞いてみるが、ピアノを弾いている動画の譜面台に、ハローキティが描かれているノートが置いてあった。

 

そこで今日のワークショップの冒頭で、ハローキティの話をする。現在、熊本市現代美術館でサンリオ展を開催していることを告げ、里村さんも紹介し、彼女たちとハローキティの出会いについて語ってもらうと、だいたいみんな幼稚園の頃に出会ったとのことだった。香港でもキティちゃんは有名だった。

 

彼女たちの宿題にコメントして、宿題の動画を再生しながら、ぼくがピアノの生演奏で共演するセッションもやった。その後は、『瓦の音楽』、『プールの音楽会』、『ズーラシアの音楽』、『千住の1010人』の話を写真を交えながら説明し、音楽は楽器でもできるけれども、楽器じゃないと思われるものでも音楽ができることを説明する。そして、琵琶や三味線などに、「さわり」というノイズを発生される仕組みがあることも説明し、ピアノの鍵盤の上に鉛筆を置いて、鍵盤を弾くと鉛筆がカタカタとノイズを出すのを実演する。これも「さわり」。こういうノイズを排除しない考え方は、アンチ排除でインクルーシヴな発想で、そのことが1010人で音楽をすることにも繋がることも説明する。今日の宿題は、自分の楽器での演奏に、なんでもいいから身の回りで見つけた物を組み合わせた演奏の動画をとって送ること。どんなのが出てくるか、楽しみだなぁ。

 

 

 

 

 

 

フィリピンからの贈り物/日本の音楽・アジアの音楽/佐久間と新井のダンス

フィリピンのDayang Yraolaから、Tシャツが届く。ぼくが関わった『Music for 1000 bicycles』と『Lstening Biennale』のTシャツ。こうやってプロジェクトのTシャツがあり、着る度に思い出せる。ダヤンにありがとうのメッセージを送ると、ダヤンがギギーと一緒にいる写真が送られてくる。インドネシアの作曲家Gardika Gigih Pradiptaが、今マニラのフィリピン大学に3ヶ月レジデンスしているようだ。ギギーが活躍しているのは嬉しい。

 

岩波講座『日本の音楽・アジアの音楽第2巻』読了。熊本市内の古本屋で安く売っていたので、全9冊を買っのだが、飾っているだけだと高い買い物になってしまうので、全集を全部読もうと思っている。ようやく2巻まで読んだ。肥後琵琶リサーチを始めているので、久保田敏子先生が書かれた章『盲人音楽ー音楽専業職能集団の内と外ー』が、特に興味深く読めた。

 

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琵琶に煤竹をつけた竹ざわりを参考に、琵琶にプラスチックやウレタンなどをつけて響きの変化を遊んでみる。音の変化は面白い。

 

佐久間新さん(ジャワ舞踊家)から、新井英夫さん(体奏家)とのダンスの実験の動画をシェアしていただく。ALSを発症し車椅子のダンサーとなった新井さんと佐久間さん、そしてヘルパーの板坂さん、そして二人のタクヤ(音楽家の大井卓也さんと小日山拓也さん)がサポートしながら、身体と向き合う時間。大変刺激を受けるものだった。

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