野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

日本センチュリー交響楽団との奇跡の時間

竹澤悦子さんとの濃密な日々を終えて、今日はのんびりしたいところですが、本日は日本センチュリー交響楽団と若者たちとのワークショップ「The Work」の日です。

本日の前半は、センチュリー響のメンバーによるワークショップで、後半が野村のワークショップ。こちらは、前回のワークショップの内容を下敷きに何ができるかを考えていると、昨年のワークショップで作った「ハローライフ協奏曲」に、前回作った言葉をはめ込んでみたら、この曲がリニューアルできるのでは、と思い、楽譜を作成する。

センチュリーのチェロの佐野さん、ヴァイオリンの小笠原さん、小川さん、ヴィオラの森さん、トロンボーンの近藤さん、三窪さん、バストロンボーンの笠野さんが参加。集まってくる若者たちとメンバーとで楽器を鳴らしたり喋ったり、交流が始まっている。18:30ワークショップ開始。

ヴァイオリンの小笠原さんのリードで、まずボディパーカッションで、5拍子と6拍子のリズムをやる。手を叩いたり、頭にのせたり、腕を組んだり、膝を叩いたり。その後、楽器で5音音階を設定して、それで「散歩」のテーマを演奏。その後、3つのグループに分かれて、それぞれ与えられた絵をグループごとに表現することに。

どうやらムソルグスキーの「展覧会の絵」を体験するワークショップのようだ。参加者の多くは、まだそのことには気付いていない。ワークショップのプログラムだけを見れば、決して目新しい内容ではないかもしれない。でも、3つのグループでは、オーケストラの楽団員と若者たちが、一緒になって絵を音で表現しようとしていて、何かの音楽の枠にはめようとする力が感じられず、とても良い関係だった。そして、そこから生まれてくる音楽も、色々な音が絶妙にミックスされた味わい深い響きをしていて、このような場/音楽が存在していることが、奇跡だと感じた。

後半は、「ハローライフ協奏曲」をやった。この曲は、昨年のワークショップで生まれた曲で、演奏に関しては、ほとんど指示がないに等しい。主人公と呼ばれるソリストの演奏に、寄り添ったり、応援したり、交流すること、に主眼がある音楽だ。主人公は、同じように日常を何度も演奏するのと、最大限に頑張って変容していく場面があり、変容の場面では、地味な楽器で精一杯頑張って演奏することが望まれる曲。この曲の演奏体験をすることで、人との関わり方に関して、感じ方が変わってしまいそうな、そんな曲。これをやってみて、ドキっとするような音楽が生み出されてきて、また奇跡のような気がした。

ワークショップ終了後に、若者たちがセンチュリ−響の楽団員に、仕事に関してインタビューをする時間があった。部屋のあちこちで、立ち話のような感じで展開される取材の光景を見て、またまた、あり得ない現場に遭遇しているなぁ、と思った。

帰りの電車の中で、振り返っていたら、ムソルグスキーの「展覧会の絵」と「ハローライフ協奏曲」は、同じ構造をしていることに気付いて、さらにドキっとした。

こうした状況を、テレビ局が取材してドキュメンタリー番組にでもしてくれたら、ここで始まっている大切な何かが、もっと多くの人々に伝えられるのに、と思います。しかし、テレビ局は、なかなか予測のつかない先駆的な事例には、手を挙げてきません。センチュリー響の若くて意欲的な事務局の柿塚くんが、このプロセスをドキュメンタリー映画にして残し、多くの人々の議論の対象になるようにしたい、このプロジェクトの意味を多くの人々と考えたいと、クラウドファンディングで資金を集めを始めています。金銭的支援ももちろん重要ですが、センチュリー響の試行錯誤している現在を見守り、こうした試みに興味を示すことも、大きな支援になると思います。「そんな考え方では甘いんじゃないか」と厳しい激励をしていただくのも支援です。無視されるよりも、よっぽど大きな励みになります。ワークショップを見学に来ること、そして、こうしたプロジェクトの意義を一緒に考えることも、大きな支援です。見学に来たい、興味がある人は、日本センチュリー交響楽団に問い合わせてみると良いと思います。まず、保守的だと思われている日本のクラシック音楽のオーケストラの中で、野村誠を招いてこうした試みに挑戦している団体があることを、知っていただければ幸いです。

ちなみに、センチュリー響のクラウドファンディングは、以下です。

https://readyfor.jp/projects/the_work-jcso