野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

鶴屋南北のちガルディカ・ギギー

早朝の電車に乗って、東ジャワ遠征から、ジョグジャカルタに帰って来る。濃い2日間だった。やりかけだった鶴屋南北のテキストに作曲をする(7月26日、隅田川アートプロジェクトで初演)。田中悠美子さんの提案で、やることになったプロジェクトで、最初は、分かっているようで、何だかあんまり理解していないまま、きっと面白いのだろうと引き受けたのだが、実際に、200年近く昔の人が書いた言葉に、曲を作っているのだが、実際に目の前にあるテキストは、悠美子さんからメールで送られているので、200年前なんて気にせずに、作曲を始めると、まるで、鶴屋南北からメールを受け取って、作曲しているような気分になってくる。そして、南北のテキストが非常に良いので、作曲していて、こちらも楽しくなり、すっかり南北と対話しながた作曲している気になってしまう。迂闊に引き受けたけど、引き受けて良かった。いやぁ、しかし、昔の人の言葉で、それは既に過去の物と思っても、そこに曲をつける時に、こっちも、「ここ、ちょっとだけ言葉変えちゃってもいいですか」とか「ここは、こういうニュアンスにしちゃってもいいですか」とか、演出家/劇作家の南北さんに質問しながら進めたいわけで、演出家/劇作家の意向を無視するわけにはいかない。しかし、南北さんは、あの世におられて気軽に会えない方なので、南北さんの意向を推測しながら、作曲する。しかし、南北の意向を想像しつつ、こちらも踏み込んでいくわけで、そのやりとりをしていると、これだけの関わりでも、南北さんとコラボレートした気になる。で、それは楽しい。

さて、南北の言葉に作曲した後に、ギギー君が訪ねてくる。1週間後のFestival Musik Tembi(トゥンビ音楽祭)に向けて、リハーサル開始だ。まずは、二人で鍵ハモの即興演奏をして、録音してみた。そして、録音を聞きながら、即興の場面ごとに、タイトルをつけてみた。ギギー君がつけたタイトルは、

1)田舎の風
2)樹々の踊り
3)村で散歩する

の3つだった。ギギー君にインタビューをした時、彼が作曲する時、音楽には物語があって、それが重要と言っていた。しかし、彼とこれまで音楽をする時は、物語という観点ではなく、音そのものにフォーカスして演奏していた。そこで、今回は、物語を考えて作曲しようと提案した。「田舎の風」、「樹々の踊り」、「村で散歩する」を結びつける物語は?そう尋ねると、ギギー君は、ジョグジャの子どもが村に出かけ、船に乗り、カリマンタン島で樹々の踊りを体験し、船に乗り日本に行き、田舎の風を体験する、という筋書きを考えた。

1)ジョグジャの子ども
2)村へお出かけ
3)船の歌
4)カリマンタンの樹々の踊り
5)船の歌
6)日本
7)田舎の風


という7つの場面を設定し、これに基づいて、もう一度、演奏してみた。そして、ジョグジャの子どもの名前は、ドドンとなり、ドドンのキャラクターを考えた。そして、変なキャラクターの「ドドンのテーマ」が生まれた。「カリマンタンの樹々の踊り」は、カリマンタンのサペという3弦楽器の音楽を説明してもらい、そこからのインスピレーションで演奏した。しかし、「船の歌」は、今ひとつ、お互いのイメージが一共有できずに終わった。

1)ドドンのテーマ
2)船の歌
3)カリマンタンの樹々の踊り
4)船の歌
5)日本
6)田舎の風

ここまでの様子を、ギギーは図形楽譜で描き、「船の歌」はピアノが入ってもいいかも、「カリマンタンの樹々の踊り」は、パーカッションが入ってもいいかも、と言った。明日は、トゥンビのピアノが使える部屋で練習することになった。各自、インドネシアの「舟歌」と日本の「舟歌」を調べて、それを合体させてもいいかも、ということにもなった。