野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

レコーディング

ウーキルの家で、今まで作った3曲をレコーディングしよう、ということになる。風通しの良いインドネシアの家で、全部の扉を締め切り、外の音を可能な限り遮断して、録音。一発録り。2曲録音したところで、3時のお祈りの時間。しばらく、お祈りが鳴り止むまで、待つ。そして、もう1曲録音して、おしまい。何テイクかずつ録るのか、と思ったら、全部一発勝負。やり直ししないんだ。タイトルを考えてと言われて、

1) dialog antara mesin dan lele(機械とナマズの対話)
2) lagu angin(風の歌)
3) ikan pun menpunyai nuklir(魚さえ核を持つ)

という3つのタイトルを考えた。1曲目は、ウーキルが唯一、エフェクターなどを通して演奏する。手作り楽器だがエレクトロニクスを介在させた楽器と、生音の鍵ハモのデュオで、かなり不穏な感じの曲なので、機械とナマズとした。しかし、曲の最後で吹いた様々な不協和音は、思いのほか美しくなって、いつかこんな感じの別の曲も書きたいと思った。日本では、地震ナマズが引き起こすと言うと、インドネシア人は笑う。2曲目は、笛と鍵ハモが美しく交わるウインド楽器デュオなので、風の歌。変拍子で、ブレイクも多く、曲調も変化していく3曲目には、ここでの会話の中で印象に残っている「近頃、日本近海では魚も核武装していて」という下り(これは、昔、小瀬さんと話したのが出典なのだけど)から、タイトルに。ということで、3曲合わせて30分。ミニアルバムの収録ができて、ウーキルはご機嫌でした。

家に戻ると、日本人のガムラン留学生2人が、練習後にまったり話し合っている。そのまま、お話に加えていただく。話題は、いつの間にか、遠く日本に。日本の未来や日本の音楽事情の未来を案ずる。ま、日本の方々から、そんなこと案ずる間があったら、自分達のこと心配したら、と言われてしまいそうですし、ま、余計なお節介なのは百も承知なのですが、やっぱり、日本の外に出ている人々は、遠くにある祖国のことをどうしても思い、色々考えちゃうのです。きっと、ジョグジャでそうであるように、今、同時に、世界の各所で、ロンドンでも、ハーグでも、クアラルンプールでも、マルセイユでも、エッセンでも、ベルリンでも、ニューヨークでも、祖国を思う日本人たちが、日本の未来について語り合っている気がします。そうした話は、なかなかその場に行かないと聞けないのですが、ジャカルタでも、ジョグジャでも、日本人の人達が、それぞれの観点で、日本のことを考えていて、そのお話が聞けたことも、実は今回の旅の大きな収穫の一つです。