野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

ジョグジャの左京区ニティプラヤン

一昨日初対面だったウーキルと、今日、またリハーサルをすることに。迎えにきてくれ、そのままリハーサルをしにウーキルの家に行くのか、と思うと、「友達のところに行くけど、いいか」と言う。KUNCIというカルチュアルスタディーの研究センターに着く。家の中に犬がいて、迎えてくれる。そして、ウォックに会う。ウォックは美術家、デザイナー、音楽レーベル主宰、そして、オルタナティブ・アートスペースMES56の共同運営もしている。7月末から3ヶ月、横浜の黄金町にレジデンスして、横浜での美術家と音楽家が、どれくらい日常的に交流しているかを調査したり、人々が交わるためのアートバーをやったりするつもりだそうだ。ジョグジャでは、音楽家と美術家は、普段から普通に友達で、混ざり合っているけど、横浜は美術のコミュニティと音楽のコミュニティが分かれているように見えるんで、その辺を調べたい、と言っていた。

KUNCIを出て、ウーキルの家に向かう。そして、早速リハーサルが始まる。「前回できた笛と鍵ハモの曲は、すごくオーガニックで、あれはポスト原発で、風とか太陽とか水とか、そうしたイメージがあるから、その前の部分を作ったらどうか、と思ったんだけど、どう思う?」とウーキル。そして、彼の手作り弦楽器にエフェクターを通し、アンプで鳴らすノイズ系なアプローチで演奏を始めた。こちらは鍵ハモで、それに応じて演奏する。途中で、ウーキルはギターのリフのようなものを弾き始め、エフェクターを使ってループさせ、それに合わせて、ノイズを鳴らしたり、弓で弦を弾きロングトーンを出したりする。一通り演奏すると、「どうだ?いいか?今の感じで、もう一回やってみようか?」と、同じことを何度も繰り返す。何度も繰り返すうちに、なんとなくストラクチャーが決まってきたり、新たに違うテイストが出てきたりする。「終わりはどうするの?」と聞くと、「終わりは君が十分やりきった感じを察したら終わるので、どう?」と言うので、ぼくが十分やりきらない限り、終われないんだ、と納得。同じ段取りだけど、思う存分に演奏したら、満足げに終わった。これで、休もうかと思ったら、「この後に、笛と鍵ハモのオーガニックな音楽だ」と、彼はジャワの笛を吹き始める。そして、昨日つくったユニゾンでやるフレーズを、やる。「何回?」と聞いてくる。相談の結果、3回やって、次の場面に移ることにする。3回は、1回目はゆっくり、2回目は普通、3回目は早くやることに。

ここで、「お祈りの時間だから、音が出せないし、ちょっと休憩」とウーキル。イスラム教徒の多いジャワでは、一日5回、お祈りがスピーカーで流れてくる。そして、近所との関係を考えると、その時間帯には、音を出せないのだ。裏庭に出て、タバコを吸うウーキル。この前は、ただの雑草だったのに、少し耕されていたりする。「ここには、ジンジャーを植えたんだ。」彼の裏庭での家庭菜園は、順調に進んでいる。マネージャーのドリーが「昨日、二人で原発のこと、マランでの公演のことについて、話し合ったんだよ。テクノロジーの進歩は、便利になる面と、そのためにリスクを負う面と両方あるけれど、どうやってテクノロジーと折り合いをつけていくのかが、課題だよ」。ぼくがジョグジャに来ていることで、こうやってジョグジャの人同士が、原発のことについても、色々彼らなりに考えたり話し合ったりしてくれている。そのことが、なんとも嬉しかった。

お祈りが聞こえなくなると、また、練習。この人、結構練習好きだ。片方がリフを繰り返し、もう片方がアドリブソロをする、という場面もできる。最後にエンディングの決めもできる。「これで、2曲できたねー」とウーキル。「1曲目は、実験音楽やノイズ系だけど、2曲目は、ワールドミュージックみたいだ。もう1曲作りたいなぁ。ぼくは、ギターも弾くんだけど、ギターのスタイルはアコースティックなのに、、、」と言って、説明してくれる。「プログレのこと?」と聞くと、「うん、そうそう。プログレプログレやっても大丈夫か?」とウーキル。「ぼくは、プログレ好きだよ」と返す。彼の自作の3弦のギターと鍵ハモで、どんなプログレになるのか。楽しみだ。

演奏していると、見知らぬ男が入って来る。彼はジュワディという木版画のアーティスト。2階で読書していたグンディスもいつの間にか降りてくる。「アーティストがいっぱい集う家だね」と言うと、「今日は少ないよ。普段は、10人くらいになるから」とのこと。ジョグジャカルタの地図を京都に重ねると、ニティプラヤンは、左京区にあたる。左京区でアーティストが集うように、ニティプラヤンでアーティストが集っている。