野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

伝統の背後に見え隠れする

大阪の山本能楽堂で催された地唄舞の公演を見に行きました。というのも、インドネシアジョグジャカルタに滞在中に、ジャワ舞踊の研鑽を積まれた釆女直子さんの評判を聞きまして、是非お会いしたいと思っておりましたところ、作曲家の樅山智子さんのご紹介で知り合いました。

そもそも、APIフェローとして、伝統芸能の継承についての研究をされた釆女さんは、

http://www.cseas.kyoto-u.ac.jp/api/fellows-jp/7/uneme.html

帰国後は、上方舞の研鑽を積まれ、今では上方舞の指導者になられておられるとのこと(吉村なをのお名前で活動)。

http://yoshimuranao.wordpress.com/

一度、彼女の舞いを体感してみたい、と思っており、その機会が訪れました。その舞いが正統な上方舞であるのかどうか、そんなことは上方舞について素人のぼくには分かりませんが、ぼくの率直な感想として、彼女は素晴らしかった。彼女の存在が舞台に現れた瞬間に、空間全体を大きく変貌させられる。彼女の身体の動きそのものを見るのではない。彼女の動きによって世界が動くのを体感する、そんな体験。舞いというのは観るものではなく、世界のうごめくのを感じることでしかない。そうした体験ができただけで、この場に足を運んで良かった、と思いました。

ジャワ舞踊家の指導や、「風姿花伝」や、さらには、上方舞の師匠からの教えを通して、その背後にある花を体得しようとしている態度。伝統芸能の中に見え隠れする本質だけをひたすら追い求める舞踊家がいる限り、伝統は博物館のショーケースに入れられることなく、次世代へと生き続けていくのだ、と思い知らされました。

今年の夏に書こうと思い、先送りしてしまった地唄三味線の竹澤悦子さんのために新曲を書くという宿題に、取り組みたくなってきました。