野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

神さまのいる芸能

バリ島のウブドへ。2泊ほど、バリで過ごしてから帰国。この観光化された村に、そんなに期待していたわけでもなく、本来の目的ではなく、観光客向けに行っているバロンダンスなどを見たり、バリガムランの演奏を聞いても、そこには、神さまもいない何か嘘くさい感じは拭えない。

でも、今日12月8日は、真珠湾攻撃の日でもあり、ジョン・レノンの命日としても知られる日なのだが、ウブドの村人にとっては、210日に一度の儀式(オダラン)の日だったらしい。

観光客が寝静まった深夜0時ごろ、遠くから聞こえるガムランの音が気になり、行ってみると、何百人もの村人が正装し、道路に集まって儀礼が行われている(道路は通行止め状態で、完全に封鎖されていた)。観光客を寄せ付けがたい雰囲気。長が聖水を村人たちにかけると、ガムランの音色とともに、一行は数百メートルほど、ぞろぞろと練り歩く。歩きながら演奏しているのに、ガムランの演奏は凄いグルーヴ感で、真夜中なのに、大音量で道を練り歩く。表向きは観光客に合わせた半ば西洋化されたお店が並び、英語で観光客に話しかけるバリ人たちの裏に隠されている世界。一行は、そのまま寺院に上がっていく。真夜中の寺院の境内は、壁で仕切られて、完全に外からは見えない。そして、近寄りがたい雰囲気のため、そこには入っていくことはできない。それでも、遠目に距離をとりながら、遅れてきた人に、中に入ってもいいか、と尋ねたが、正装していないと、ここから先は入れない、気をつけた方がいい、と言われた。

実際、気をつけた方がいいと思った。バリ・ヒンドゥーの神が、はっきりそこには生きているのを感じた。下手に入っていくと、やばいと感じた。

神のいない観光客向けの芸能と、神のいる観客不在の村人のための芸能、その両方を体験してしまった。そして、ぼくは、儀礼の途中で寺院を後にした。道で出会ったバリ人に、どうしても尋ねたくと質問すると、彼は偶然、神戸に住んだことがある人で、これは、210日に一度の特別な儀礼の日だったらしいことを知る。

「神さまがいるね」
というぼくのコメントに、
「でも、神さまはどこにでもいるでしょ。京都も同じでしょ?」
と彼は言った。

ウブドはこんなに観光化されているのに、バリ人の精神世界の中で、神様はリアリティを持っている。