野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

ウマとの音楽

大田智美ちゃん、富田珠里ちゃんによる「ウマとの音楽」の再演を聴きました。今日の演奏は、かなり細かいところで色々仕掛けている演奏で、丁寧な仕上がりで、心地よかったです。徳島で聴いた時は、全体を大きく捉えている感じがして、空気に包み込まれました。今日の会場は、響かないのと空調の音が邪魔するのもあって、響きが空間になるのではなく、点や線になりやすいのです。

比較するのも変ですが、ちょっと考えをまとめるために、徳島での体験と比較してみます。

徳島で聴いた時は驚くほど、ウマを感じました。ぼくが出会ったウマとは全く違ったウマだったのですが、でも、そこにはウマが現れた。二人の演奏家の妄想に、ぼくも引きずり込まれた感覚を持ったのです。

今日の演奏は、ウマを感じるというよりも、音符を感じました。純粋に楽音としての音符を感じたのです。このフレーズをこういう風に歌ったのかとか、ここは、こう解釈したのか、などなど。

どっちもありだと思うのですね。で、どっちのアプローチで行っても、徹底すれば同じ地点に達するような気がします。

で、演奏会が終わって、ふと、繊細さ、丁寧さを兼ね備えながら、大胆な思い込みや妄想の力の鋭さを持つ、御喜美江さんのことを思い出しました。御喜美江さんの譜読みは、思い込みというか、妄想のパワー炸裂です。このフレーズは、こういうイメージと、楽譜に書いていなくても、勝手にストーリーをでっち上げる御喜美江さんの譜面の読み方は、ただものではありません。

演奏家の世界観に、どれだけ観客(そして作曲家)を引きずり込んでいくか、ってことを思いました。強烈な思い込み、妄想が、演奏に力を与える。御喜美江さんのブログの写真を見ても、この人のイメージの力を感じます。

次は、大田智美さん、富田珠里さんが、音で描く絵を、もっと見てみたいなぁ、と感じながら、入間の仏子という駅で電車に乗りました。お二人、本当におつかれさま。これからも(野村作品を含め)素敵な演奏をしていってください。