野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

がんばれ!マルガサリ

今日は、ガムラン「桃太郎」の練習です。9月10日が本番ですが、次、ぼくが参加できる練習日は、1ヵ月後の8月28日までないのです(スケジュールがあいていなかった)。ですから、今後1ヶ月、ぼくなしで練習が進められるように、音楽的な面で、必要なことを、できるだけ詰めておく必要があります。

前回のリハーサルで、第5場の結末の音楽について、みんなが悩んでしまい、仕上がらなかったので、今日は、それを仕上げる必要がありました。そこで、前回作った歌詞の素材をもとに、歌作りをすることをメンバーに促しました。メンバーは、なかなか歌作りに抵抗があるのか、気がつくと楽器の演奏になってしまいます。ある意味、やり慣れていることに逃げているとも言えます。でも、この逃げ場からも、いくつか予想しない表現が生まれてきましたし、焦って仕切りなおすのも、何か親切すぎる気がしたので、そのまま黙ってマルガサリの即興に追随したりしてみました。

実は、「桃太郎」第5場というのは、マルガサリとの5年間における作品づくりの最後のシーンになるわけです。5年間野村誠との共同創作を経て、最後には、野村誠の力なくして、マルガサリだけで作品を作っていく、という筋書きを、ぼくは望んだところがありました。昨年は、そういうつもりで、ぼくは、一歩引いた存在として関わりました(別にマルガサリと別れを告げるためではありません)。今回も、ぼくが全て作ったり構成してしまうこともできますが、それはしたくなかったので、ぼくは待ちつつ、しかし、1ヶ月来れない現実もあるし、本番を成功させる責任もあるので、迷いましたが、条件付きで、その後の進行を仕切っていきました。

つまり、「1ヶ月後に来るまでに、歌詞が変わっていても、メロディーが変わっていてもいいですよ。とにかく、これは叩き台ですから」と断った上で、いくつかの楽曲をフィックスするために動きました。ワークショップリーダーみたいな感じで、みんなの意見を引き出しつつ、とにかく作品として形にまとめていく作業をしました。そしたら、メンバーはどんどん生き生きして、クリエイティブになり、第5場の核となる3つの楽曲が、次々に生まれていきました。また、前回用意した歌詞の素材を全て使い、今日あの場にいた全ての人が1フレーズずつ作った歌ができ、これを合唱曲として歌うことも決まりました。「合唱の現代曲みたいな感じだね」とメンバーが言います。今までに一度もなかったタイプの曲を、マルガサリメンバーが最後に作りました。

これで、1〜5場の全ての楽曲の練習・アレンジ・再構成・作曲は完了しました。あとは、1ヵ月後までに、マルガサリが、それをどこまでのクオリティで演じることができるようになるか。そして、野村誠がいないからこそ、もっともっと飛躍することを、期待しています。「さあトーマス」は、野村誠なしで上演するのが当たり前の作品になりました。「桃太郎」も野村誠なしで上演できちゃうと思います。そして、野村誠なしで上演できる強度をマルガサリが持った時、野村誠は、その作品をぶち壊しにかかる揺さぶりをかけることが初めてできるのです。野村誠に大暴れされて揺さぶられても耐えうる強さを持つ作品に1ヵ月後会えることを、ぼくは期待しています。そして、そのときに、ぼくは大暴れをして、作品をグラグラに揺らして、さらに一回り大きくする、そんなことができたらなあ、と夢見ています。がんばれ!マルガサリ