野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

あいのてMA

今日は、「あいのて」の第3回、第4回のMA。MAっていうのは、何の略か知らないけど、音の最終編集作業。第1回、第2回は、スタジオの都合でマルチ録音できず、第3回以降は、マルチで録音することになった。だから、今日は別々のマイクでとった音をミックスするミックスダウンの作業をすることになる。

さて、とにかく、まずは収録の時に、いかにベストの演奏を、ベストの録音をするかが、一番大切なのは言うまでもないのですが、一度素材があったら、その後はある素材で最大限理想の音を目指すわけです。

で、これはCDではなく、テレビなので、マイクが置きたい位置にマイクを置くと、カメラで撮影ができないので、カメラの視界に入らない程度に離れた吊マイクを仕込むのと、出演者のそれぞれの衣装に仕込んであるピンマイクをミックスが中心になります。それだけのマイクの組み合わせで、一番欲しい音質や音のバランスを目指します。さらに、見る人のテレビのスピーカーによっては、相当貧弱な音色で聞かれるかもしれないことを考慮に入れて、しかも映画ではないので、周りがかなり騒々しい環境でおしゃべりしながら見ていることも前提としていつつ、音を提示していくわけです。「あいのて」で扱う音は、日常の中にある音だったりもするので、下手すると生活音の中に埋もれてしまいかねません。だから、できるだけ、音の面白さにフォーカスを当てないと、視聴者に音の面白さが伝わらないのでは、と考えます。

だから、手を丸くして叩いた音と、手を平たくして叩いた音は、そのままでも、スタジオのスピーカーでは音色の違いがはっきり分かりますが、どんなテレビで見ても伝わるように、手を丸くして叩いている音だけを不自然でない程度に低音を強調し、手を平たくして叩いた音を少し堅めにしてみたりします。

マリンバの上でピンポン球を落とす場面で、吊マイクの音がいいかな、と思ったのですが、吊マイクだと、マリンバにピンポンがあたる音以上に、床にピンポンが落ちる音を拾っているのです。だったら、床に消音用のマットを敷けば良かったのですが、マットを敷くと、そのエリアにカメラが入れなくなるので、映像のため渋々マットを敷かなかったのです。それで、ピンマイクの方の音の方が、マリンバの直接音をよく拾っているけど、それと同時に出演者が動き回っているので、服のこすれる雑音も拾っています。こうなると、何を優先するかになってきますが、最終的に、ピンマイクを7割くらいで吊マイクを3割くらいで混ぜる方針になってきます。その上で、ピンマイクに入っている雑音のうち、映像と照らし合わせて、不自然な雑音をさらに、出きる限り取り除く、なんてことになっていきます。

さらに、出演者それぞれの演奏の中で、誰かがいい演奏している瞬間を見つけたら、できるだけその人の演奏が際立つように、そのあたりだけ、その人のマイクの音量を上げて他の人のマイクの音量を落としたりします。

15分の番組2本分のMAに10時間かかってしまいました。もっと時間があったら、もっと細かくこだわりたいところは、さらにあるのですが、自分が最低限やっておきたいところだけでも、こんなにあるのです。毎回、こんなに時間をかけるわけにもいかないので、そもそもぼくらの演奏がもっと良ければいいのです。

とにかく、第3回、第4回は、1、2回に比べれば、圧倒的に良くなっていると思いますし、今日完成した番組を見て、さらに新たに反省したことは、5回目以降に生かします。

ぼくの今日の反省点は、収録の時に、5人の出演者全員がこだわりの音を出すモードになるような音にこだわるオーラを、野村がもっと発していれば、みんなはもっとこだわった音を出せたはずです。魅力ある音を発し、魅力ある音楽を発信すること。基本的に遊びを見せることが目的でもなければ、楽しそうにすることが目的でもなくって、みんなが気がついたら音の世界に入りこんでいるような場を作ることなのです。ということは、まず、番組の出演者が、みんな音に入りこんでしまうようなオーラをぼくが発し、そして、番組の出演者がそうしたオーラを発して、視聴者も音の世界に入りこんでしまうような場をつくることです。自分が何をすればいいのか、再確認できました。とにかく、音楽です。