野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

へっ

ホエールトーンオペラの清書が、ほぼ終わりかけてきた。16分音符で細かく色々やってるのを何パートも書くと疲れる。パソコンで書いたら、オクターブユニゾンとかは、コピーしてペーストすればいいんだろうなぁ、こちらは、だんだん指が疲れてシャープペンを握る力が衰えてくる。今年は、どこかで楽譜作成ソフトを買って、使い始めよう、っと。ソロとか小編成のものは、手書きで書いて、編成の大きいものは、パソコンを使うようにしたい。

SMEPの卒論は、添削して下さい、と続々届いている。野村誠の方法を分析すると、次の6項目になる、らしい。

?一緒に作り上げる姿勢を持つ。
?参加者の興味・関心がどこにあるのかに気づく。
?意味のある空白の時間をつくる。
?参加者と同じように、指導者自身も一参加者となって楽しもうとする。
?その場の流れ・雰囲気・状態がどうあるべきかを常に考え、それに近づけるように心がける。
?参加者の興味・関心が深まるような働きかけをする。

で、この6つの項目をまとめると、要するに以下の2点だ、と書いてある。

1 常にさまざまな思い、考えをめぐらせていること
2 いろんな選択肢を比較し、その時最も大切だと思われることを最優先すること」

それで、これだけでは、あまりに抽象的だなぁ、と思って、この二つについて、答えてみた。つまり、

1では、要するに参加している人が、「やる気をなくす」ような展開の可能性を、ぼくは常に色々考えていて、そうなる芽を順番に摘み取っているらしいことが分かった。

2の「もっとも大切なこと」は、参加している人が自分の気持ちに正直に「やりたいことをやる」

ということらしい。つまり、ぼくは極言すれば、参加している人がやる気を失うことだけは避けたいらしい。逆に言うと、やる気さえあれば、何か道は見つけられるはずだ、と信じているようだ。だから、あらかじめ決めたプランを実行するより、その場その場で参加者の様子を見ながら、興味のありそうなことを優先するのが、ベストな方法なのだろう。

と、自分の謎を分析してもらって、その文章の添削をしているのは、本当に不思議な感覚。多分、こんな体験をしたことがある人は、あんまりいないだろうし、ぼくの人生でも二度と訪れないだろうなぁ。

SMEPのS、しおちゃんが来た。今日は、作品の楽譜をどう書くかを、見ていった。メトロノームを出して、細かいテンポの変化も書き出してみる。ここは、accel.ここは、meno mosso、ここはad libなどと、書き込んでいくと、彼女たちが遊びながら作り上げた作品が、いかに複雑な曲か、がよく分かる。と同時に、これを楽譜に再現するのは、かなり大変な作業。微妙な間(フェルマータ)があったり、senza tempo(拍がなく)なったり、全員が同じことを同時ではなく、微妙にずらしてやるが、そのタイミングは演奏者に任されていたり・・・。ぱっと見ると、楽しそうに遊んでいるだけで、よくよく楽譜にしてみると、ものすごく緻密に計算されていて、たった4分間の曲に、多様な音楽のやり方が凝縮されているのが、分かる。結構、時間をかけて、丁寧に楽譜にした。ぼく自身も作曲の勉強になった。

で、しおちゃんは、作品に関する第5章を担当だけど、その後の「結論」(=まとめ)のページも担当している。「まとめ」に何を書きたいか、雑談しながら、しおちゃんの話を聞く。
「受け容れてくれる人がいるから、表現できるんです。でも、せっかく表現しても、何それ?、『へっ』って横に捨てられちゃうから、表現することが臆病になる、表現したくなくなる、自分の気持ちにフタをするんですよね。」
だから、ぼくらは、自分の気持ちにフタをしないように、どうやって生きるか、ってことをやってきた。そうだ、自分の気持ちにフタをして論文書くより、少しでもフタが開いた方がいい。
「でも、自分も『へっ』ってしてしまう気がするんです。実習とかで、単位が欲しかったり、評価されたかったりして、子どもの気持ちなんか『へっ』ってしてしまう自分もいると思う。」
このコメントこそ、自分の気持ちのフタが開いて出てきたんだ、と思った。そもそも、論文提出の3週間前になって、曲が作りたい、っていう気持ちを「へっ」とせずに、言ってくれたのも、しおちゃんだった。彼女のフタは開いているから、ぼくが「へっ」としないようにすればいいんだ。
「『まとめ』なんか、まとまらなくっていいから。書いてて、何か書きたくなったことがあったら、関係ないことでも、まとまらなくなるようなことでも、それを書いていいから。全然、まとまってなくっていいんだ。もし、書きたいことがあったら、『へっ』としないで書いてみて。なかったら、無理に書きたいことなんて探さなくってもいい。こんだけやったんだもん。まとめなんて、本当にまとまらなくっていいんだ。論理なんて崩れてていいからね。」

無理してフタを開ける必要はないけど
もし、フタが開いたら
閉じないようにして
何が出てくるかを一緒に見守る
何かが出てきてもいいし
何も出てこなくてもいいし

で、しおちゃんが帰った後、ホエールトーンの楽譜を書き上げ、マザーアースに返送する楽譜の校正に目を通し、一つずつ仕事をやりあげられて、結構、快感。これで、明日からは、マリンバ+ピアノの作曲に取りかかれるなぁ。楽しみ。