野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

いよいよP−ブロッ

いよいよP−ブロッのコンサート本番。今日は「あたまがトンビ」と「リトルネロ練馬」の世界初演。気合十分、やる気満々で門仲天井ホールに向かう。

「トンビ」を冒頭部分から細かく丁寧にチェックしながらリハーサルをする。曲のニュアンスが出ていない部分が徐々に解消されて曲の感じが出てくる。「練馬」も丁寧に練習。P−ブロッのメンバーは練習では、みんな本気を出さずに軽く演奏しているので、練習でダメでも本番はちゃんとやるだろうところと、このままでは本番もまずいところを見極めて練習を進めなければいけない。大丈夫そうなところは、
「ココは酷いけど、本番はもっとちゃんと演奏して下さいね。」
と言い、このままでは本番でも中途半端になりそうなところは、何度も練習で確認をする。

本当はPA(マイクによる増幅)はせずに、ナマ音で聴いてもらうのが理想だが、お客さんが入ると響きが吸われてしまい、響きが足りなくなると思われるので、軽くPAすることにした。コンデンサーマイク2本でアルト+ソプラノを拾い、シュアーのマイクでバスを拾う。このやり方がうまくいった。だんだん、鍵ハモのPAの仕方も確立されてきた気がする。

本番前にソバ屋でソバを食べていたら、何度も地震が来た。新潟の方が震源らしい。以前、P−ブロッで演奏に行った新潟県見附市の人々は大丈夫だろうか?

ライブが始まる。始まる前に吉森君が、
地震が来たからって、演奏続けなあかん!それがミュージシャンってもんや。」
というようなことを、大真面目に言った。それに潤さんが
「そうかぁ。」
と納得してから、コンサート開始。

1曲目 「Binaire」(しばてつ作曲)は、まあ普通の滑り出し。2曲目の「AllBlues」(鈴木潤作曲)で、執拗にグルーヴを続けているうちに、だんだんお客さんも暖まってきた感じ。3曲目の「本日のさんぽ」(鈴木潤作曲)あたりで、少し調子が出かけたところで、4曲目の「それぞれの植木鉢」になった。

「植木鉢」を吉森くんが、すごく微細な音で、味わい深く演奏を始めた。それなら、とぼくも彼の演奏に追随して、演奏する。CDに録音した時の演奏とは全然違って、ポツリポツリと出す音一つ一つが語りかける。そこでのやりとりが楽しく美しい。

そして、ついに「リトルネロ練馬」の世界初演だ。やはり、P−ブロッのメンバーは本番には集中するので音の立ち上がりがリハとは全然違って、やる気のある音がする。緊張感が途絶えず、大きな事故も起きずに、曲が中盤に差し掛かった頃、カタカタと音が聞こえてきた。ちょうどその時、曲はピアニッシモになった。一番、静かに聞かせる場面だ。カタカタの正体は地震だった。ぼくは、すぐ横のスピーカーの安全だけに気を配りながら、演奏を続けた。揺れる中、ピアニッシモでアンサンブルを続ける。緊迫感が増し、演奏のテンションが高まった。そのまま、曲は続き、地震はおさまった。いい初演ができたと思う。

休憩後は、まず色々メドレー。林加奈作曲の「ファンファーレ」、「男はつらいよ」、レゲエ「アンサー」、「北風小僧の寒太郎」、「シェイク」と続けて演奏。この手のコードとメロディーだけで自由に演奏するのが、昔はP−ブロッは酷かったが、今日は、その中でみんながうまく遊びながらアンサンブルを作っていて、ぼくも演奏していて楽しかった。続いて、「犬が行く」(林加奈作曲)では、みんな犬の鳴き声を楽器で出すのが、随分上達して、かなり犬っぽくなった。映画音楽「ニューシネマパラダイス」、「ディアハンター」も、やや雑なところもあるが、気持ちが乗って演奏しているので、いい感じ。

そして、ついに「あたまがトンビ」の世界初演。難しい曲だが、5人とも臆せずに前に出る演奏をしていたので、演奏のテンションは持続したまま曲が進んだ。もちろん、細かい部分などは、もっと強弱のニュアンスなどまだまだな部分も多いが、初演ならではの緊張感で、でも中途半端にならずにはっきり演奏できていたと思う。そして、曲の後半の入り口で拍節がなくなるところは、かなりうまくいった。空間の広がりがあった。その後のルバートも、なんとか歌えた。最後の場面に入る。偶然鳴り響く和音の重なり。ここまで集中力を途切れずに来れたので、あとは味わうだけ。お客さんもぼくらも響きと空間を味わえた。ここで照明明るすぎたかな、とか、演奏しながら思ったりもしたけど、そんなのどうでもいいや、そうやってできた和音は、聴いていた人によると「オーロラのよう」とのこと。

アンコールに「この道」と「おやすみなさいコアラリス」(野村誠作曲)をやって、終演。

イギリスからAndrew Melvin(作曲家)とシマさん(ハーモニカ奏者)が来てくれた。アンドリューは鍵ハモを愛する作曲家。いつかP−ブロッと共演したいものだ。

あと片付けして、もんじゃ焼きを食べに行く。門仲天井ホールの黒崎さんはもんじゃ奉行。とっても美味しかった。P−ブロッの演奏がすごく良くなってきたので、今後が本当に楽しみだ。ぼく自身も、最近演奏の楽しみを少し知り始めた気がする。