野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

肥後琵琶を学ぶ(3回目)

肥後琵琶のお稽古3回目。琵琶を入手してから1ヶ月経った。前回同様、岩下小太郎さんと後藤昭子さんのお宅へ伺う。5月12日に鹿児島で薩摩琵琶の演奏会があるので、一緒に行かないかとお誘いを受ける。肥後琵琶は今年で350周年なのだが、演奏者が数名しかいないため、筑前琵琶や薩摩琵琶と連携をはかっている。薩摩琵琶の話の流れで、作曲家の原田敬子さんのお名前が出て、こんなところで原田さんのお名前を聞くとはびっくりしたが、原田さんは薩摩琵琶の調査をかなりされているようだった。確かに、ぼくが執筆した数回前の『五線紙のパンセ』のエッセイで書かれておられる。

mercuredesarts.com

 

10月に予定している350周年記念のコンサートに向けての準備の話し合いが続く。気がつくと、琵琶をめぐる研究者の方の話、東京から石田琵琶店の方をお招きし琵琶の作り方を教わった話、玉川流の最後の琵琶法師と言われる山鹿良之さんを追ったドキュメンタリー映画の話など、琵琶の世界の専門的な話から世間話までが延々と繰り広げられる。お二人は、色々な琵琶をお持ちで、小太郎さんの笹琵琶と呼ばれる細くて軽い楽器を弾かせていただく。ウクレレのような琵琶。こういう楽器もあるのだ。

 

後藤さんが40年近く前に山鹿さんから教わっていた頃の貴重なレッスンを録音したカセットを聴かせていただく。山鹿さんが琵琶を弾き語るのに合わせて若き後藤さんが一緒に歌っている録音。浪曲に近い歌い方で、琵琶の手が独特。調絃の狂わせ方がアヴァンギャルドロックのようでもあり、しかもリズムがカッコいい。語りの合間に挿入される琵琶の手が3+3+2のリズムになっている。録音を聞いた後、この3+3+2のリズムについて質問をする。すると、後藤さんが「じゃん、とぅるるー」のところかと、実演してくださる。「じゃん、とぅるるー」と山鹿さんが教えてくださったのかと聞くと、山鹿さんはただ演奏するだけで、それを後藤さんが自身でそのように覚えたのだ、と言う。後藤流の口三味線ならぬ口琵琶も貴重。ぼくが後藤さんの口琵琶から真似て演奏をしていると、小太郎さんが星沢流の上田義視さんの場合の琵琶の手を教えてくださり、突然、楽器のレッスンへと移行する。

 

www.youtube.com

 

今日も結局、4時間以上、後藤さんのお宅でお話を聞いたり、琵琶を奏でたりする濃厚な一日だった。

そして私も音楽になった/たらいまわしにされる/掃除する

小西公大(編)『そして私も音楽になった』(うつつ堂)読了。作曲家の宮内康乃さんも執筆されていて、宮内さんより献本していただいたので、早速読んだ。宮内さんの高知の小学校でのガムラン実践が第8章だが、ウガンダのカリオキ、タイのモーラム、教室でのトーンチャイム、インド舞踊の視線、チベタン・ポップなど、どの章も興味深い(石橋鼓太郎の章があったら、さらによかったのに)。色々な土地を旅して、人々と音楽に触れる感覚が心地よかった。

www.hanmoto.com

 

実はクレジットカードの有効期限が迫っているのに住所変更していなくて、それを成し遂げるために、本日は悪戦苦闘した。ウェブでやろうとして、パスワードか何かが違ってうまくいかず。フリーダイヤルにかけると、なかなかオペラーターにつないでもらえず。オペレーターに繋いでもらった挙句、これは別のフリーダイヤルにかけろと言われ、またオペレーターに繋いでもらい、説明すると、これはカード会社じゃなくて、カードを発行した銀行にかけないとダメと言われ。銀行にかけると、銀行の中の別のフリーダイヤルにかけろと言われ、永遠にたらい回しが続くのではないか、と気が滅入りながら、しぶとく続けていった結果、ついに住所変更に応じてもらえた。で、住所変更したら、カードが届くんですか?と質問すると、それはどうか分からないので、届かない場合は、こちらのフリーダイヤルに電話して、と新たな番号を伝えられる。すごい世界に生きているのだ、と思う。

 

花粉なのか、PM2.5なのか、とにかく鼻ムズムズで、とてもピアノの録音などできないので、大掃除を始める。室内の埃を減らし空気をきれいにし、鼻うがいをする。掃除はつづく、、、

 

 

 

日本の作曲2020-2022/ピアノと鉛筆と筒/ピアノとサヌカイト

『日本の作曲2020-2022』(サントリー芸術財団)がpdfで公開になった。野村誠作曲《どすこい!シュトックハウゼン》(2021)も紹介されている。紹介されることは、有難いので感謝。ただ、5人の評者全員がぼくより年少の方がいないので、少し世代が偏っているのかなぁ、と思った。現代音楽の若手の音楽評論家はいないのだろうか?一人でも良いので、せめて40代、できれば20代や30代の人が入って欲しいと思った。選ばれている作品に関して言えば、もっと東京以外の地方で初演されている作品に触れてもいいし、もっと女性の作品が紹介されてもいいのでは、もっと若手の作品が紹介されてもいいのでは、とは思った。

https://www.suntory.co.jp/sfa/music/publication/pdf/composition2020-2022.pdf

 

自分の作曲の根幹に、「あそび」がある。55歳になっても遊びの精神を忘れることはない。忙しくなりすぎると、「仕事」モードになり、責任感をもって任務を全うすることも大切だが、無責任にとりあえず遊ぶことから思わぬ発見があるので、暇であることを大切にしている。今日も思わずピアノで遊んでいるうちに新奏法を発見してしまい感激している。新奏法の発見は、熊本市現代美術館での濃厚なワークショップの余韻もあるかもしれない。鉛筆を使ったピアノの奏法で、そこからエスカレートして、ブームワッカーとピアノを組み合わせる奏法も考える。

 

高松市美術館の音楽のためにピアノを少し録音。

新年度のはじまり

昨日いっぱい働いたので、今日は働かずにのんびりと過ごす。庭の植物たちは、ここのところ加速度的に成長をしている。抜いても抜いても雑草が元気だ。山々は霞んでいる。花粉が多いのか、PM2.5なのか、それともただの春霞なのか。花粉のせいなのか、鼻水がひどい。ついに花粉症デビューなのか。洗濯物を外で干すと気持ちいいけど、花粉まみれの寝室を作っているような気にもなり悩ましい。

 

昨日のミュシャミュシャモシャモシャミュージックのこと、熊本市現代美術館のことなどを思い出しながら、これから熊本という土地をどう耕し、何が育っていくのだろう?と想像する。と同時に、せっかく九州に住んでいて韓国が近いので、今年度からは韓国に行こうかな、と思う。特に何かプロジェクトがあるわけではないので、韓国に友達を作りにいき、熊本と韓国で何かプロジェクトがやるためのパートナーが見つかったらいい。熊本市現代美術館で上映していた山内光枝作品での釜山の風景が、そういう気持ちの背中を押してくれた気がする。

 

夜は星空。満月も過ぎて下弦の月の時期になるので、月がいない夜空はちょっと前の満月が輝いていた夜空よりも星が見やすい。木星も冬の星座も、ずいぶん西に寄ってきて、獅子座や乙女座など春の星座が東側の空を賑やかせているし、北の空も、北斗七星が高くまであがってきた。

 

2023年度が終わり、2024年度が始まったようで、SNS上で新しい仕事や役職に就いた人が報告をしていて、ワクワク感が伝染してワクワクする。みなさん、ご活躍を!

 

 

ミュシャミュシャモシャモシャミュージック/香港の高校生との2回目

本日は、熊本市現代美術館アートラボマーケットで4時間に渡って、『ミュシャミュシャ・モシャモシャ・ミュージック』を開催した。

www.camk.jp

熊本市現代美術館には、ミュージアムショップとカフェが併設されていたのだが、そのカフェは営業をやめてしまい、元カフェだったスペースを、アートラボマーケットという名称で活用することになり、今年度から里村真理さんが担当をしている。ここは一体、何?

 

この美術館には、展示室もあり、ワークショップルームもあり、図書スペースもあり、キッズルームもあり、ショップもある。そこに生じた空きスペース、アートラボマーケットは、その何でもない新たな実験の場としての可能性を探っている。

www.camk.jp

 

人類学者のジョシュア、ダンサーのワタクミさん、作曲家の稲森さん、プロデューサーの坂口さん、美術家の宮本さんなど、熊本在住の方々と再会/交流できて、そういう出会いの場が色々な人に開かれていること自体に可能性を感じた。ここは、本来カフェだったのだが、カフェという名前のイベントを開催しても良いのだ、と思った。

 

一方、このスペースに人工芝を敷き詰め、楽器をいっぱい持ち込んだところ、楽器の音色に惹かれてか、親子で参加される方が非常に多かったことも印象的。ワークショップは、里村さんとアシスタントの穴瀬さんが応対してくれ、その時々の参加者のノリで、自然発生的な即興セッションがうねり、かなり面白い瞬間が何度も現れる。特に、このスペースは窓が大きく天井も高いため開放的な雰囲気で、ダンサーとともに伸び上がった時に、非常に気持ちよく感じ、この場所は体を動かすことにも向いていると思った。

 

即興セッションで新奏法が色々発見されたが、ブームワッカーの新奏法が面白い。ぼくは、もともとはブームワッカーの音色にあまり魅力を感じていなかったのだが、最近、考えを変えてきて、自分でも購入した。

 

ミュシャの同じ絵を同時に数人で模写するのが面白かった。今回の模写のルールは、ミュシャの絵のうち5本だけ線を選んで模写をしてもらった。だから、同じ絵なのに、人によって違うところに着眼する。そして、その結果、具象の絵画から抽象的な図像ができあがる。その図像を楽譜として解釈する。自分の模写した絵を演奏するよりも、他人が模写した絵を演奏した方が面白い。今回集まった楽譜を使って、それを発展させる次なるワークショップもやりたいな。

 

野村誠をカフェマスターとするカフェやりたいなぁ。来た人と喋り込んだり、時に演奏したり、のんびりしたりする空間。あっという間の4時間半(最後、盛り上がりすぎて、30分延長してしまう)。

 

4時間ワークショップしたのに、22時から香港の高校生とのオンラインワークショップ2回目。高校生たちが、古箏、柳琴、ピアノ、ボーカルなどについて発表してくれた後、ぼくも作曲について発表して、その後、音階の話とかリズムの話とかレクチャーして、オリジナルな音階を作ってもらったり、リズムを作ってもらった。宿題も出した。

 

 

 

 

サヌカイトと声とピアノ/ミュシャモシャの準備/香港の準備

高松市美術館の開館の音楽の音源を作っている。ワークショップで演奏してもらったサヌカイトの音源を繋ぎ合わせ、そこに、ワークショップで語ってもらった声を重ね、そこにピアノを重ねる。ワークショップのサヌカイトの揺らぐリズムを整えてしまっては、ワークショップで音源をとった意味がないので、それを活かしつつ、その揺らぎを覚えてピアノで合奏する。ここは少し遅め、ここは少し速くなる、などの微妙な間合いを覚えていく。そうやりながらピアノパートを確定させて、今日は練習。週明けに録音して重ねよう。

 

明日は、熊本市現代美術館で『ミュシャミュシャ・モシャモシャ・ミュージック』ワークショップをするので、楽器を色々準備する。琵琶も持って行きたいし、大正琴も、トイピアノもと、、、準備する。

 

あと、明日の夜には、香港の高校生たちとのオンラインワークショップの2回目があるので、それに向けてパワポを準備中。

 

 

ミュシャミュシャモシャモシャ/開館の音楽/ミヨー見まね

3月31日の日曜日は、熊本市現代美術館でワークショップというか、野村誠という広場が出現するのをやりたい。出入り自由なので、好きなときにどうぞ。

 

www.camk.jp

 

高松市美術館の開館・閉館の音楽をつくっているが、現在取り組んでいるのは、

 

おはようございます。ただいまから開館いたします。どうぞ、ごゆっくりお楽しみください。

 

というもので、これを結構、色々な人の声で録音した音があり、さらには、全員で言ったものなどもある。「ごゆっくり!」とノリノリで楽しそうに言っているのもあり、これらをどのように配置するかが、作曲のメインだったりする。サヌカイトは、一人ずつ順番に叩いたのが、規則的だけれども、少し揺らぎがあって面白いので、これに合わせてピアノを入れることにして作曲中。とてもシンプルなものになりそうである。

 

Darius Milhaud『Notes without music』読了。作曲家ミヨーの自伝の英訳。いつか『ミヨー見まね』という「だじゃれ音楽」をやりたいと思っているが、まだやっていない。今回、読みながらミヨーをいっぱい聴いたので、少し詳しくなった。以前、たまたま駒場アゴラ劇場の近くの古本屋で安くで売っていたので買った本。

 

第1次世界大戦の時はブラジル行き、第2次世界大戦の時はアメリカに行くし、ポール・クローデルジャン・コクトーなどとの交流の話など話題が色々面白い。ヒンデミットがアマチュア向けの現代音楽について関心があると、いうようなくだりが何度も出てきて、そういう作品を頼まれて書いたりもする。

 

www.youtube.com

 

www.youtube.com

 

仲の良い夫婦のようで、マデレーヌ・ミヨーの話は頻繁に出てくるので、ウィキペディアで調べたら、2008年(105歳)まで生きておられて、びっくり。彼女に献呈するために、こっそり弦楽四重奏を書いた話とかも出てくる。そして、ベートーヴェンよりも多く弦楽四重奏を書くと決めて、18曲書いた。多作。 弦楽四重奏の第14番と第15番は、同時演奏もできて弦楽八重奏になるそう。

www.youtube.com

 

 

www.abebooks.co.uk