野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

のんびり休日

1週間の遠征が終わり、自宅。

 

今日は、畑仕事や家事を中心にのんびり過ごす。いしいしんじさんがベートーヴェンピアノソナタ32番について熱く語ってくれたので、全音の楽譜を買ったが、16番〜32番までが一冊に入っているので、前から順番に弾いている。ベートーヴェンは、鍵盤ハーモニカで吹いたことはあるが、ピアノの楽譜も持っていないくらいなので、全く弾いたことがなかった。結構不自然に低音域や高音域が使われているのが、特徴的。21番まで弾いたが、どの曲もシツコイ。

 

1日、のんびり過ごすつもりだったが、

 

オリジナル日田ミュージック

《どんどん日田どん!》

林業祇園囃子・相撲の神様大蔵永季をテーマにしたコンサート

 

の準備中なので、そんなにものんびりしていられないと思い始め、原作の紙芝居のテキストをリライトしたり、各シーンの音楽をスケッチしたりする。今週は、だいたい日田のことをやって過ごす予定。

 

 

DO WE DREAM UNDER THE SAME SKY/ワタリドリ計画

『岡山芸術交流2022』を鑑賞中。昨日回れなかった会場を巡る。最後に行った会場の天神山文化プラザの一室に、今回の出展作家の作品が大集合していて、それは昨日と今日巡った体験を走馬灯のように想起させるような総集編のような体験だった。『岡山芸術交流2022』のタイトルは

DO WE DREAM UNDER THE SAME SKY

というもので、一つの空の下に集められた作家たちが、それぞれ全く違うやり方で夢を見ていることを示されたように感じ、胸に響く。

 

里村さんがレンタカーを借りて、2時間ほど車を運転して、奈義町現代美術館に連れて行ってくれる。岡山県鳥取県の県境に近いところに、現代美術館があるなんて知らなかった。

www.town.nagi.okayama.jp

 

ここで、来週から『ワタリドリ計画』の展覧会が始まるので、武内明子さん、麻生知子さんが設営中で、ほぼ展示が完成していたので、展示を見せていただくが、とても良かった。武内さんのアクリル画、麻生さんの油画の作風の違いが互いに補完し合うようであること。絵画以外に麻生さんが陶オブジェをつくり、武内さんが映像をつくり、滞在制作の体験が複合的に体感できる。

www.town.nagi.okayama.jp

 

常設作品と磯崎新の建築は相互連環していて、作品のために構想された建築であり、建築のために構想された作品。

 

現地滞在1時間半弱で、また2時間かけて岡山に戻り、さらに熊本まで帰って来る。ということで、1週間に渡る熊本→京都→東京→横浜→大阪→岡山→奈義→熊本という旅が終わる。野菜に水やらなくっちゃ。

 

 

 

岡山芸術交流2022

里村真理さんと『岡山芸術交流2022』を見に行く。

 

www.okayamaartsummit.jp

 

島袋道浩くんの《白鳥、海へ行く》という映像作品の音楽を、ピアノで弾いているので、見に行った。岡山芸術交流2016でも、島袋くんの《弓から弓へ》の音楽を作曲して、あの時は『島袋の弓とノムラノピアノ』というイベントもやったので、久しぶりの岡山芸術交流。

 

今年はアーティスティック・ディレクターがリクリット・ティラバーニャで、小学校の校庭にリクリットのレシピによるカレーの販売があり、リクリットのディレクションによる備前焼の器に入って出てくる。なかなかスペシャルなランチ。

 

島袋くんの作品、よかった。自分の演奏の音を聴くと(本人なので)細部が気になって反省点が多いのだけれども、派手なドラマの一切ない島袋作品の細やかなドラマへの眼差しに寄り添った演奏ができたかなぁ、と思う。島袋ワールドにぐっとくる。島袋作品を鑑賞中、写真家の野口里佳さんにそっくりな人が目の前に現れ、びっくりしていると向こうも「野村君の音がするなぁと思って来たら、本人が見てた」と、びっくりしていたようだ。東京都写真美術館でやっている野口里佳展、まだ観に行けていないけど、近々観にいくよー。その時には、近くでオープンしたTsutaya Bookstoreに藤野裕美子さんの作品も常設されたらしいので、そっちも観に行きたいなぁ。

 

topmuseum.jp

 

gardenplace.jp

 

今年、『ガチャ・コン音楽祭Vol.2』で柳沢英輔さんを招き、ベトナム少数民族ジャライ族のゴング音楽をとりあげたが、岡山芸術交流2022に、『アート・レーバーとジャライ族のアーティストたち』という不思議な名前のユニットが出品していて、それがサウンドインスタレーションで、この人たちとも友達になりたいと思った。

 

アピチャッポンの短編映像を一挙にいろいろ見れたり、曽根裕くんの作品を久しぶりに体験できたり、リクリットの日替わり舞台パフォーマンスの一貫として、一切の要望を受け付けずクレーム不可の無料ヘアカットを、里村さんもぼくも体験し、髪型が大きく変わった。

 

夜は、池田亮司の作品の高周波から耳を保護しながら、池田作品の光に目がくらんで後、岡山城皆既月食を眺める。楽しい休日。

 

 

 

《うまれるひと うまれるひと》/世界のしょうない9年目

河野有砂さんとのプロジェクト《うまれるひと うまれるふと》は、楽譜+テキスト+写真を限定100部印刷する予定で進行中。本日、有砂さんと印刷会社を訪ねた。環境を考えての印刷を模索する会社。デザイン、紙の質感、などなど、とても良い。

 

大阪に移動。大阪音大にて、世界のしょうない音楽ワークショップの今年度の第1回。過去の8回は以下のような感じで、9回目の今年度の特色は、オンラインでも参加できるが、対面では主に弦楽器の体験ができるので、最終的に不思議な弦楽器オーケストラができあがりそう。

 

1年目(2014年度):哲学カフェとグレゴリオ聖歌Dies Irae》に基づく日本センチュリー交響楽団によるワークショップに基づき、野村が《日本センチュリー交響楽団のテーマ version2》を作曲し、サンパティオホールで発表。

2年目(2015年度):センチュリー響の西洋楽器に大阪音大の邦楽器が加わったワークショップに基づき、野村が《日本センチュリー交響楽団のテーマ version4》を作曲し、サンパティオホールで発表。

3年目(2016年度):西洋楽器と邦楽器に、さらに大阪音大からガムランシタールが加わる。「ふるさと」をテーマに中国やインドネシアやインドの故郷のイメージなども含めたワークショップに基づき、野村が《日本センチュリー交響楽団のテーマ 想家》を作曲し、サンパティオホールで発表。

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4年目(2017年度):西洋楽器、邦楽器、民族楽器に、大阪音大より古楽器ヴィオラダガンバ)が加わり、地歌越後獅子》をベースにしたワークショップに基づき、野村が《越後獅子コンチェルト》を作曲し、豊中市立文化芸術センター大ホールで発表。

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5年目(2018年度):イギリスの作曲家ブリテンとバリガムランをテーマにしたワークショップに基づき、野村が《青少年のためのバリバリ管弦楽入門》を作曲し、ローズ文化ホールで発表。

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6年目(2019年度):琵琶とのワークショップに基づき、野村が《祇園精舎の宿題の》を作曲したが、コロナのため発表会が中止。

7年目(2020年度):コロナ禍での音楽で世界をめぐったオンラインワークショップに基づき、野村が《日羅印尼中の知音》を作曲し、ローズ文化ホールで無観客発表+配信。

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8年目(2021年度):対面での箏の体験にワークショップとリモートワークショップに基づき、野村が《雪つもり 時の流れが 春をよび》(1 宮城道雄 洋楽出会う 2 菊武祥庭 洋楽に出会う)を作曲し、ローズ文化ホールで発表。

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今日のワークショップでは、

 

18:30-19:00 楽器体験

19:00-19:30 挨拶、いろいろな楽器の紹介

19:30-20:00 楽器体験+簡単なルールでの合奏

 

というような流れだった。オンライン参加者が数名で、20名以上が対面での参加だったので、オンラインの参加者が疎外感を感じないように、リモートなりの一体感の作り方が大きなチャレンジだった。センチュリー響からは、ワークショップ初体験の音楽家が4名(ヴァイオリンの池原衣美さん、廣津智香さん、田中真美さん、チェロの高橋宏明さん)いるので、そこもチャレンジ。でも、難しいなりに、なんとか一緒にやれた初回だった。次回以降への課題も色々見えた。

 

『人情芸術祭 表現街』にて新曲《吉田武司》世界初演

アートアクセスあだち『音まち千住の縁』ディレクターの吉田武司さんが長年あたためてきた企画『人情芸術祭 表現街』にゲスト出演する。今日の本番で良いパフォーマンスをするために最高のランチで準備したいと思い、ラザッパに行く。

 

【公式】野菜イタリアン La ZAPPA 北千住 / TOPページ

 

あまりにも久しぶりに行ったので忘れられてるかと思いきや、入るなり「お久しぶりです」と声をかけられ、あたたかく迎え入れてもらい、しかも、最高の美味しさだったので、これで今日の本番は大丈夫と思えるほどの充電が完了。

 

食後、本町商店街を歩き、『人情芸術祭 表現街』をめぐる。商店街のあちらこちらで、パフォーマンスなどが繰り広げられている。今日1日で60組以上の出演者が出る。一見すると商店街全体を使った大道芸フェスティバルのようにも見えるが、実はそうではない。路上でのパフォーマンスは、様々なノイズに埋もれないように、分かりやすく強度のあるものになりがちだ。しかし、一見してカテゴライズできない演目、雑踏の音にかき消されそうな地味な演目など、路上に向きとは思えない演目が、あちこちで同時多発していて、ステージらしい設えもないし、大型のスピーカーやマイクなどもない。だから、観客の側が「鑑賞する」という態度を示すことで、そこに舞台があることに気づく。そんな双方向性の交流が数々あるようなフラットなステージが商店街の路上を中心に、近くのお寺のお庭や芸大の前のスペースなどに出現していた。だから、出演者だけでなく、観客や通行人まで含めて描かれる風景そのものが『人情芸術祭 表現街』という感じがして、とても良い企画だと感じた。また、3年近くコロナで人と対面で交流することが制限されてきた今、まるで長い冬の間に土の中で準備していた表現の種が、突然、大量に芽を出したような感じがして嬉しくなった。

 

さて、だじゃ研(=だじゃれ音楽研究会)約20名との出演は16:00から。

 

1 ケロリン

2 吉田武司(新曲、世界初演

3 ボロボロボレロ+ワンダフル

4 Aokidさんとのセッション(新倉壮朗も飛び入り)

5 お客さんに貝を配ってのフリーセッション

6 表現貝

7 観客も混ざり合ってのフリーセッション

 

こんなプログラムになった。だじゃ研でビッグバンド的な楽曲の演奏もよかった。Aokidさんとのセッションも、スリリングかつ展開も読めずに瞬間瞬間が生きていた。思った以上に多くの観客が貝殻を演奏し、狂乱のセッションにも加わってくれた。手応え十分の本番だった。

 

2016年のインドネシアツアーの際、ジャティノムという田舎にメメットに連れて行ってもらい、そこのコミュニティの人たちとメメットが築き上げていた音楽に出会わせてもらった。その時に、最後には狂乱のセッションになった。こちらの動画の36:40あたりからのその時のセッションの様子が見られる。こんな狂乱のセッションが、千住の街中で見てみたいというディレクターの熱い思いが実ったのか、今日の最後も、誰が出演者で誰が観客だかわからない、狂乱のセッションとなった。

www.youtube.com

 

コマーシャルに成功する音楽を作りたかったら、観客に消費してもらう音楽をつくる必要がある。売れる商品をつくる必要がある。でも、市民が参加して社会を変えていくとか、世界を主体的に変えていくんだ、という思いを音で伝えるんだったら、観客は消費者じゃない。観客は仲間であり、観客は共犯者であり、観客は共演者である。観客は共創のパートナーである。だから、舞台と客席の見えない境界なんて、壊れた方がいい。コロナで非接触型で密にならず交流せずに、と推奨されてきた。コロナのガイドラインが少し緩やかになり、久しぶりに、フラットな場で少しだけ境界が揺らぎ、交流が起こった。自分で自分をパッケージして商品になってる場合じゃない。接触と非接触の境界線をギリギリで行き来しながらも、お互いを刺激し合いながら、今を生きているぼくたちの文化を作っていく。ぼくたちのムーブメントを作っていく。消えそうな火をを消さずに、灯し続けていく。勇気づけられる1日だった。

 

吉田くん、おめでとう。熊倉さん、長尾さん、石橋くん、屋宜さん、遠藤くん、、、、、、事務局のみんな、カツカレーさま&ありがとう。だじゃ研のみんな、素晴らしいパフォーマンスありがとう。ゲストのAokidさん、飛び入りしてくれたTASKE、大井卓也さん、ありがとう!!!

 

人情芸術祭『表現街』に向けてのリハーサル

アートアクセスあだち『音まち千住の縁』のディレクターの吉田武司さんが、あたためていた企画『人情芸術祭 表現街』がいよいよ明日行われる。

 

吉田さん個人の以下のインタビュー記事はこちら。

www.cinra.net

 

昨年に第1回を開催し、ぼくもお誘いを受けたが、あいにくスケジュールが合わず参加できなかった。しかも、昨年は雨が降ってしまったらしい。今年は、ぼくの日程もおさえることができ、明日、だじゃ研(=だじゃれ音楽研究会)とともに出演する。

 

aaa-senju.com

 

先週は、かつての音まちのディレクターだった清宮陵一さんがあたためていた企画に出演し、清宮さんのロマンに応えるべく全力を投じたが、今週は、現在の音まちディレクターの吉田さんの妄想に応えたいと思う。

 

本日は、だじゃ研との最終リハーサル。大きなうちわなど、色々な道具が準備されている。本番は明日の16:00-16:30なので、その時間を想定して、15:30に芸大を出発して、商店街に移動。実際に楽器を鳴らしたりしていると、通りがかりの人が反応してくれたりして嬉しい。色々試して、以下のようなプログラムになった。

 

1 ケロリン

2 新曲

3 ボロボロボレロ+ワンダフル

4 Aokidさんと野村誠の即興セッション

5 貝のオーケストラ

6 表現貝

7 フリーセッション

 

明日、他にもいろんな演目があるので、楽しみだなぁ。

 

鈴木潤との東アジア鍵盤同盟/片岡祐介のスピーカー

鈴木潤さんとalbum制作中。ぼくがピアノで、潤さんがエレピのデュオ。レコーディングは既に完了していて、本日はミックス作業。潤さんのお宅にて。

 

どの楽曲をアルバムに入れるかの選曲。音量のバランスや音質を整えるミックス作業。複数のスピーカーで聞いて確認していく。普通、 PANをふると言って、楽器によって少し右側で鳴っているようにしたり、左にしたり、楽器の音像の位置を立体的にする。ところが、二人の音を敢えて真ん中で同じ位置にしてみた方が、二人の音が溶け合ったような感じになって、セオリーに反して両方ど真ん中にする。

 

レゲエのキーボードの潤さんなので、自然な音のスピーカーだけでなく、低音が箱鳴りするスピーカーもある。同じ曲を聴き比べた時に、箱鳴りするスピーカーになった途端に、曲の魅力が半減するタイプの曲があって、びっくりした。二人の音が重なり合って複雑な音響を作っている曲は、低音が鳴るスピーカーになると、驚くほど音楽がつまらなく聞こえるのだ。100~200Hzあたりの音域をイコライザーでカットすると、ようやく曲がイキイキしてくる。片岡祐介さんが、箱鳴りするスピーカーを嫌い、段ボール箱に入ったスピーカーを作って販売しているが、その意図が体感できる出来事だった。箱鳴りするスピーカーは特定の音楽ジャンルの音楽しか成立しない響きを出してしまうのだ。

 

「純セレブスピーカー」という名称を聞くと、悪ふざけだと勘違いされる方もいるかもしれないが、片岡氏のアプローチには一理ある。特定の音楽ジャンルでしか気持ちよくならない色付けをしてしまう高級スピーカーは、それ以外のジャンルの音楽を気づかないうちに排除してしまう。どんな音楽様式も選ばないスピーカー、変な色付けをしないスピーカー。

 

jun-serebu.net

 

片岡祐介のスピーカーを宣伝してしまったが、今日は彼のスピーカー理念に大きく賛同する経験の1日。その結果、潤さんとのアルバム、ジャンル不明の音楽だけど、どこか民謡のようでもあり、ポップでもあり、ぼくたちの30年間のエッセンスが詰まった曲が満載のものになりそう。アルバムタイトル案を考える。仮タイトルは、「東アジア鍵盤同盟」。