野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

アマチュアと現代音楽

東京から、ヴィブラフォン奏者の會田瑞樹さんが京都に来られている。6月7日に、バロックザールでリサイタルをされるのですが、全曲、ご自身で委嘱された日本の現代作曲家の曲ばかりを演奏されるので、大変楽しみにしているのです。ところで、実は、明日、京都で、會田さんが演奏するコンサートがもう一つあって、これが、京都コンサートホールでのアンサンブル・フリー第25回演奏会でして、ここで、薮田翔一さんの新作ヴィブラフォン協奏曲を世界初演するというのです。で、管弦楽がプロかと思ったら、アマチュアなのです。

で、明日の演奏会には伺えそうにないので、本日のリハーサルを見学させていただくことに。アマチュアのオーケストラの方々が、こんなに複雑な現代音楽作品を演奏するのか、と薮田さんに譜面を見せていただき、驚く。「えっ、今日が初めての合わせですか?」と聞くと、もう何ヶ月も前からリハーサルをしているとのこと。えっ、東京からソリストを呼んで、既に合わせもしているのですか?しかも、指揮者と作曲家とヴィブラフォン奏者でのリハーサルもしたこともあるし、とのこと。つまり、この曲の初演のために、驚くべきほどの時間をかけて、何度も練習をして、この複雑な楽譜もオーケストラのメンバーに身体化されていっているのです。

昔、ぼくが学生の頃、雑誌で武満徹さんが対談しているのを読んだことを思い出す。本番前に2回リハーサルするだけで本番を迎えるようでは、オーケストラ曲で新たな冒険はできない、と言っていて、えっ、オーケストラって、新曲のリハーサルで、それくらいしかしないのか、と驚いたものです。そして、武満さんが冒険できない、と言ったのに対して、じゃあ、ぼくは冒険するために、一緒に新しい音の実験ができる仲間や場を作ろう、と思ったことが、その後のぼくの活動に繋がっています。武満さんのボヤキを読まなかったら、ぼくはワークショップのような手法で、音楽の可能性を広げていく実験をしよう、などと思わなかったかもしれないわけです。

しかし、武満さんがボヤく時代から30年近く月日が流れ、武満さんも他界されて20年の月日が流れ、アマチュアのオーケストラが現代音楽の新作初演を、こんなに時間をかけて丁寧に向き合う時代が来ているのです。こんなリハーサルに立ち会えたこと、感謝します。薮田さんの作品も、大変イメージが明確で良い作品でした。新作以外に、もう一曲、日本初演となる旧作も、また違ったテイストの曲でしたが、どちらも素晴らしかった。

1994年にイギリスに留学してヨークに着いた日に、Contemporary Music for Amateursのチラシを見つけ、もうそれは終わってしまったイベントであったのですが、アマチュアのための現代音楽のサマーセミナーがあるのか、イギリスは凄いなぁ、と驚いたのでした。現代音楽はプロだけのものではないし、プロの音楽家でも現代音楽をやる人は非常に少ない。アマチュアの人々が演奏して楽しめる現代音楽もいっぱいある。そうしたセミナー、日本でももっとあればいいと思う。そこで講師に名を連ねていた作曲家のMichael Parsonsの連絡先を図書館のあらゆる書物を探して住所を見つけて、手紙を書いたのも23年前かぁ。月日の経つのも早いものですが、それから23年経って、京都でこうして、現代音楽を初演するアマチュアのオーケストラが出てきたわけです。凄いなぁ。嬉しいなぁ。もっとやって欲しいし、応援したい。明日の演奏会の大成功を祈りたい。

家に帰って後、また、少し、自分の作曲にとりかかる。チェロ協奏曲の第1楽章「ミワモキホ」を書き進める。北口大輔くんの素晴らしき演奏で初演されるのは、8月23日なのです。