野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

ラガヴーリン62

京都の国際交流会館イベントホールにて、ラガヴーリン62のコンサートがありました。ぼくの作曲した「狸囃子」(作詞:木ノ下裕一)の本番前のリハーサルに立ち合いました。ラガヴーリン62は、東京藝大の邦楽科(箏曲生田流専攻)の昭和62年卒業のメンバーによる集まりで、今回が5回目。ちなみに、ぼくは昭和62年に京大の理学部に入学したので、本日の出演メンバーは、ぼくが大学生になった時に、大学を卒業された方々で、少し先輩なのです。

邦楽というと、非常に伝統で由緒正しい世界で、なかなか入り込めない先入観を抱きますが、野村の「狸囃子」に対して、「面白い、悦ちゃんにぴったりな曲ですね」と笑顔で言っていただき、大変オープンなお人柄の方々ばかりで、こちらは門外漢ではありますが居心地の悪さを感じずに楽しくいられます。それどころか、「狸囃子」の途中で、ファンが声援をあげるような掛け声を入れたのですが、それも三味線奏者が語るつもりで書いたものの、ラガヴーリンの他の出演者が掛け声隊になって、舞台袖で合の手を入れるように大声で言ってくれるのです。すっかり受け入れられて、応援されているようで、嬉しい限りです。

コンサートは、竹澤悦子さんによる世界初演が一番の楽しみではあったのですが、柳川三味線と絹糸を張った古い箏の二重奏の本当にうっとりする音色に、感激の連続でした。途中の解説トーク、演奏、様々な趣向、本当に退屈することなく、全プログラムを満喫いたしました。そして、「狸囃子」が見事に世界初演されました。

あと、ラガヴーリン出演者の息子たちが大学生/大学院生で、やはり藝大で邦楽を学んでおられます。そして、これが名手なのです。次の世代が育っていることも喜びです。

終演後の打ち上げの席で、ラガヴーリンの藝大時代の恩師である地歌の大先生とお話しました。「狸囃子」について、「あれは、ちゃんと地歌の発声を学んだ人の歌でした。あれは、地歌になっていました。」とのお言葉をいただきました。表面上の地歌のスタイルを模倣するのではなく、竹澤さんの地声で地歌らしさを最大限出せることを意識して作曲しました。ですから、表面上は全然地歌っぽくない無国籍な音楽に聞こえるかもしれません。でも、地歌の大先生が、あれは地歌でした、と言っていただき、本当に嬉しい限りです。竹澤さんは涙ぐみ、「もう明日死んでもいい」と答えると、大先生は、「まだ、ダメですよ。あの世には、検校さんや名手がいっぱい待っていますからね。あの世が本番です。この世は練習です。あの世で検校さんたちと合奏ができるように、この世で十分にリハーサルをしておかなければいけません。」と、おっしゃっていました。ぼくも、まだまだ、この世で習作を作っていこうと思いました。

ラガヴーリンの皆さん。おつかれさまでした。