野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

分断とバイパスづくり

「千住の1010人」のリハーサルのため、東京に来ております。東日本大震災があって、原発事故があり、日本の人々が立場や考えの違いによって、どんどん分断されていく危機を感じました。そんな時に、構想したのが「千住の1010人」でした。構想から3年の月日が経ち、2週間後の10月12日に、足立市場で行われます。

この分断されている感覚に対抗する術として、「1010人」という人数で新作の初演をする、という目標を掲げたわけでして、これは、甚だ大変な目標でした。あらゆる手段で人集めをしても、80人集まればいいところなのかもしれません。それなのに、1010人を目標に本番の2週間前の現時点で既に350名ほどの出演者が確定しているのは、本当にスタッフの方々の頑張りが凄かったのだと思います(このペースで出演者が増えていけば、本番の演奏者の総数は少なくとも500名は超えるでしょう)。そして、分断された世界の中に、小さなバイパスを少しずつ作っていく作業が始まっているように思います。

本日のリハーサルは、音楽のリハーサルとして充実していたと同時に、そうした小さなバイパスづくりが、少しずつ行えたことにも、大きな価値があった、とぼくは思います。昨日は、各参加者に対して、ぼくが指揮や指示をしながら、アンサンブルを組み立てていたので、野村と参加者の関係は成立したものの、参加者通しの横のつながりが希薄でした。本日は、各パート内でのパート練習の時間を細かく入れることで、参加者同士のコミュニケーションが始まり、音楽がより有機的に動き始めたように思います。

また、「すっぽんぽん体操」講座など、練習以外に体験できる企画を始めました。毎回のリハーサルが単に本番のためのリハーサルというのを越えて、色々な形で音楽を楽しむための道をつくっていく場にしていきたい、と思います。リハーサルの前に行ったガムランの練習、リハーサルの後に行われた鍵盤ハーモニカ講座や打楽器講座も含めて、なんだか藝大が非常にクリエイティブな『生涯学習の場』になってきているのが、面白いですし、こうした企画に、だじゃれ活用協会の方々まで関わってきたりして、展開が大変面白くなってきています。

今、ぼくがやっているのは、ある特定の考えを人々に提示することではなく、色々な考えや立場の人が共存できる場としての音楽を提示することです。そして、そうならなければいけないわけではないのですが、人々の間に相互作用が起こると、ぼくとしては嬉しくってニヤニヤします。和太鼓好きな小学生がお箏のお姉さんと友達になってはしゃいでいたり、藝大生が鍵盤ハーモニカの魅力に仰天したり、ガムラン倍音に魅せられてやりたくなっちゃう人が現れたり、久石譲が好きで日本に留学にやってきたスウェーデン人が鼓のリズムを叩いていたり、足立市場の職員さんが楽器をやっていたり、野球が上手な人のキャッチボールに合わせて音楽家が演奏したり、、、、。

出演者、依然募集しています。このリハーサルの場に見学することも可能ですし、参加することも可能です。次回のリハーサルは、10月5日です。その時には、タイからアナン・ナルコンもやって来ます。

http://aaasenju.wix.com/senjuno1010nin