野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

千坂児童館のミュジーク・コンクレート

昨日から、「あいのてさん」(尾引浩志片岡祐介野村誠)で金沢に来ております。本日より千坂児童館にて、「あいのてさんレコーディング祭」がスタートです。これは、児童館の一室(図書室)を2日間、レコーディングスタジオとして、興味のある子ども達が自由に出入りして、多重録音をして曲を作ろうというのです。一体どういうことになるのか、やってみるまで分かりませんでした。

出入り自由なので、子ども達が来てくれるかどうかが心配だったのですが、いきなり興味津々で、子ども達がどっと押し寄せました。しかし、最初の一音を録音する勇気は、なかなか出ません。児童館にけん玉があったので、けん玉の得意な子どもにけん玉をやってもらい、それを録音することから始めました。現代の子どもたちが、こんなにけん玉が上手なことに驚きましたし、けん玉の音色は非常に良いリズムを奏でてくれました。二人のけん玉を別々に録音し重ねたことで、ポリリズムが生まれました。そして、そのリズムに合わせて音を重ね出したところ、部屋のスティールラック、ブラインド、本棚の本、ゴミ箱など、次々に子ども達が演奏し、口笛、巻き舌の声、あっと言う間に、凄いグルーヴの音楽になりました。その音楽をヘッドフォンで聴いた子どもが「サンバみたい」と言いました。ただ、やみくもに、連打するリズムを重ねただけなのに、サンバのようなのです。

その後も、録音は続き、子どもたちは、レコーディングスタジオを飛び出しては、思いつくものを手にして戻ってくるのです。スリッパ、竹馬、ポックリ、缶、玩具、オセロゲーム、積み木、将棋盤、トランプ、紙、なわとび、思いつく限りの物を持って帰って来るのです。途切れることなく、録音が続きます。途中、あいのてさんにも休憩をとお願いして、20分だけ子どもたちを部屋の外に出てもらいましたが、既に廊下で音が出る物を持って待っていまして、その後も延々と録音は続きました。

結局、3曲とりまして、1曲目が17チャンネル、2曲目が24チャンネル、3曲目は17チャンネルの多重録音をしました。帰ってから、ミックス作業をしましたが、本当に喜びに満ち溢れた素朴な音の重なりが、なんと豊かなことか。音源をミックスしながら、1950年頃、ピエール・アンリとピエール・シェフェールが始めたミュジーク・コンクレートという音楽に一番近いな、と思いました。具体音をテープに録音することの喜びに満ち溢れている素朴な感じが、アンリとシェフェールが始めた時の感覚に近いのです。サンプリングしたり、パソコンで音源を加工したりする以前の、音そのものを録音する喜びの音楽。