野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

音楽家の仕事の仕方〜親戚を訪ねて質問されたので、書いてみました

お正月なので、親戚めぐり。それで、「音楽家って普段どうしているのか?」、さらには、「どうやって食ってるのか?」と不思議がられました。ぼくからすれば、サラリーマンはどうやって生活しているのか、医者はどうやって生計を成り立てているのか、の方が、よっぽど不思議なのですが、でも、意外に謎らしいので、ざっと書きますと、

コンサートやワークショップなど、家から出かけていく場所が決まっている仕事の場合は、その仕事に専念します。遠方の場合は、前日入りしてホテル泊になったりします。そうした日が、年間トータルでは、4ヶ月ほどになります。例えば、2012年でしたら、青森泊が2ヶ月、東京泊が1ヶ月、イギリス2週間、長崎県内に2週間、インドネシア1週間、その他の色々な場所(佐賀、富山、金沢、稲沢、名古屋、静岡など)に2週間以上は泊まっていたと思います。

また、日帰りのケース(京都や大阪)もありまして、京都造形芸大の授業、大阪音大での授業、大阪の小学校でのワークショップなどなど、こうした日も、それだけに専念します。ということで、家にいないで仕事に出かける日が、実は一年の半分以上なのです。

とは言え、一年の半分弱は、家におります。フリーランスというのは、完全なオフと自分で決めない限り、毎日が仕事になってしまいます。例えば、我が家は住居でありつつ仕事場でもあるので、今日はオフと決めたら、仕事の電話や仕事のメールに返信しない、と心を鬼にしないと、オフがなくなります。

ところが、家にいて、仕事をするような休暇のような中途半端な日というのが、結構あります。こういう日は、のんびり起きて、ご飯食べて、のんびりお茶をして、事務的なメールの返信などをしたり、ピアノの練習をしたりして、そのまま曲のアイディアができたりする時もありますが、まだ〆切は先だし、気分転換しよう、とカフェに行ったり、図書館に行ったり、畑に行ったりすることもあります。

つまり、この1週間で、最低、この原稿と、この作曲をしなければいけないとか、決まっているけれども、今日、必ずこれをしなければいけない、とは決まっていないわけです。で、音楽を聴いたり、本を読んだり、人と話したり、散歩をしたり、まぁ、かなり自由な時間を過ごすわけです。仕事を引き受け過ぎなければ、自由な時間が膨大にあります。


どうやって食べているかですが、収入の種類がやたらに多くて、

作曲委嘱料
コンサートの出演料
テレビ、ラジオの出演料
対談、シンポジウム出演料
講習会の講師料
大学の特別講義講師料
ワークショップ講師料
(番組、プロジェクトなど)監修料
コンクールの審査員料

本、DVDの印税
楽曲(著作権)使用料
本、CD、DVDの売り上げ(自分で買い取り売る場合)

原稿執筆料
インタビュー料

通訳料

など、かなり色々な収入があります。こうした仕事は、それぞれ単発で入ってきます。1年ほど前に依頼が来るものもあれば、数ヶ月前に依頼が来るものもあれば、数週間前に急に入ってくるケースもあります。なので、だいたい、常に、これから半年くらいは、ええ感じに仕事が入っており、半年後〜1年後は、ぽつぽつと入っており、1年以上先は、ほとんど決まっていない、という感じになります。仕事が入ってきた時に、忙しさと収入の加減で、引き受けたり断ったりを自分で決めます。

できるだけ野村誠でなくても他の人でもできそうな仕事は引き受けず、お断りするようにしております。他の人(できれば若い人)を紹介します。限られた音楽の仕事を、ぼくら中堅世代がどんどんやり過ぎると、若い世代の仕事のチャンスを奪ってしまうことになる気がするし、若者の恨みを買いたくもないので、譲れる仕事はできるだけ譲っております。

逆に、未開拓の新分野に取り組み、音楽家の仕事の領域を拡げていくことは、積極的にやっております。そうした仕事は、前例のない新しい仕事である場合が多いので、どんな関わりをするのか、どういう仕事の内容になるのか、ゼロから考えることになるので、金額も仕事の内容も交渉になります。ぼくは、マネージャーなどをつけずに、自分が窓口になっているため、こうした報酬の交渉も自分でやっております。

できあがったコンサートのパッケージを持って、日本全国/世界各地を巡る方が目先のお金儲けとしては効率がいいですが、水のないところに井戸を掘るように、新しい音楽プロジェクトを立ち上げていくのは、長い目で見ると、すごくやりがいがあるので、そうした仕事を好んでします。

また、人に頼まれて音楽をするだけでなく、自分からやりたい音楽をするために、自主的にコンサートを企画します。そちらは、お金を稼ぐためではないので、赤字にならない程度に企画します。少し規模の大きいことをしたい場合は、助成金や企業協賛を申請して資金の援助をしてもらったりもします。

だいたい、そんな感じですが、これで問題なく、生きてこられました。