野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

鼻毛が揺れる

静岡県の大井川の上流にある川根本町にある音のミュージアム「音戯の郷」に来ております。音をテーマにしたミュージアムというのは珍しく、いろいろ可能性はありそうです。

ただ、人口8,000人程度の町で、過疎が進み、少子/高齢化が進み、正確な数字は忘れましたが、人口の約48%が65歳以上らしく、小学校が次々に廃校になり、現在、全部で4校400人程度の児童がいるらしい、川根本町で、このミュージアムを継続していくことは、なかなか大変だろうとは、想像できます。開館当初はもっといた小学生の数は、現在では全人口の5%しかいないわけで、年々、減少していくようなのです。仮に、町内の全部の小学生が年に一回ずつ家族と一緒に来館しても、1,000〜2,000人程度の来館者で、一日平均すれば、4〜8名程度の来場者となります。となると、遠方からの観光客を獲得していく必要が出てきますし、交通の便が決して良いわけではないので、静岡の都市部にある文化施設を遥かに凌ぐ魅力をどうやって生み出していくかは、課題のようです。あいのてさんが、呼ばれたのも、こうした状況に何か貢献するためなのかもしれません。

ということで、ワークショップに参加する子どもの数も決して多くなく、館内外の各所でゲリラ的にパフォーマンスを行いながら、子どもを巻き込んでいって、ようやく参加者がぽつりぽつりと増えていくのでした。

しかし、子どもの視点というのは、先入観なく物を見ていて、はっとさせられます。太陽神という名前の木製の顔の形をしたスリットドラムがありまして、鼻や目や耳や舌などを叩くと音が出る太鼓でした。ぼくがこの太鼓を叩いていると、小学生の女の子が、ぼくの方を見て、「はなげ」と呟いたのです。ぼくは、「えっ」と驚き、ぼくの鼻から鼻毛が出ているのだろうか?と思いましたが、どうもそうではありません。よく見ると、この太陽神の鼻の下に、もじゃもじゃとした毛がつけてあったのです。こちらは、これは楽器だ、太鼓だ、と思って見ていて、鼻毛はビジュアルの装飾だが、音にはあまり関係ないので、そこに意識が全然いっていませんでした。ところが、そこには、鼻毛があった。そして、鼻の部分を叩くと、いい音がするだけでなく、鼻毛が揺れるのです。

ぼくは感激して、「はなげ、はなげ、はなげがゆれる」と唱え歌い始めました。あいのてさんの尾引さん、片岡さんも、それに呼応して「はなげ」「はなげ」と歌います。「鼻毛が揺れる」という即興ソングが生まれました。

顔の形をした楽器の「鼻毛」に着眼する精神。それこそが、ぼくが偏愛するもので、ぼくの美意識です。誰も重要だと思っていないことから、世界がちょっとだけ変わる瞬間に出会うと、嬉しいのです。「鼻毛が揺れる」という歌が、「音戯の郷」の未来への風穴を少しだけ開けた瞬間に出会えて、この場にいられて良かったと思ったのでした。