野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

石の音楽〜ジョグジャの西洋音楽

 インドネシア西洋音楽というジャンルは、面白いです。芸大の西洋音楽の作曲の先生は、石だけを使った音楽を作曲して、学生と練習しています。インドネシアの民族楽器ばかりを集めたバンドをやっているけれど、西洋音楽学科の作曲の先生です。今日は、そんなメメットさんのリハーサルを見に行きました。来週、ジャカルタでメメットさんの新作「Menunggu Batu Bernyani(石が歌うのを待つ)」が初演されるのです。ジャカルタまでは、ジョグジャから電車で7時間ほど。まぁ、地元で見ようと思い、リハーサルを見に来たわけです。
 まず、リハーサルをやっている場所が素晴らしかった。個人宅らしいのですが、石造りの家、石の壁、石庭、、、、全てが石なのです。これは、インドネシアでは珍しい。石のアーティストの個人宅で、自分でデザインしたようですが、まず、空間が美しく、びっくりしたのです。そして、その石の庭のボウフラがいっぱい発生しそうな池があって、その近くに、石琴(石でできた木琴みたいな楽器)、薄い石をぶらさげてある石のベル?、そして、ざるの上にのせられた小石、くりぬかれてカップのような形になった石など、石の楽器が設置されていて、視覚的もにすごく美しかったのです。石の音楽が始まる以前に、これは、石の美術だったのです。
 そして、約50分の作品の冒頭は、メメットさんが石のオカリナを吹くところから始まり、様々な石の奏法が登場。ぼくが以前作ったテレビ番組「あいのて」で紹介した石のフィルター奏法や、豆とコップを組み合わせた奏法なども出てきて、ああ、同じように発想するのだなぁ、と親近感を持ちました。石の音の重なり合いは、本当に複雑な音色で美しかったです。実際には、石を演奏している映像も組み合わせていて、映像の音と生の石が共演するところも多かったのですが、個人的には、映像以外の部分が一番良かったです。
 メメットさんによると、スラマット・シュクールの「ミニマックス理論」に基づく発想らしい。ミニマルをマキシマルに使うのが、ミニマックス。つまり、楽器は石だけと最小限(ミニマル)に限定しているが、石でできることは思いつく限り何から何まで最大限(マキシマル)にやってみる、ということらしいです。
 とにかく、こんな素敵なロケーションで、石の音楽を作っていることが、なんと幸福なことか、と思いました。あいのてさんと、メメットさんが、共演する機会をつくらなければいけませんね。

 そうそう、午前中には、ジョグジャの芸大の大学院のセミナー「Penciptaan Musik(音楽の創造)」で、院生達のプレゼンを聞きましたよ。一人は、マラク島出身で、マラクの儀式を題材に作曲するというプランでした。弦楽オーケストラに、マルク島の太鼓、木の打楽器、笛などの楽団が加わる混合オーケストラ。面白そうです。もう一人は、黄道12星座に基づく弦楽四重奏を作る、というプランで、12曲をそれぞれ違った違った舞曲のスタイル(ガヴォット、メヌエットサラバンドとか)で作曲するようです。インドネシアの作曲家が12の舞曲を作るなら、インドネシアの各地の舞踊の形式を取り入れた方がいいだろうなぁ、と思いました。でも、自分のことに置き換え、ぼくが、日本の(または、アジアの)様々な舞曲のスタイルで作曲しようと思いました。こうやって、大学院のセミナーに参加しているだけで、自分がやるべき宿題が、一個ずつ見つかるから面白いですね。