野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

ジョグジャの即興とは?

 ジョグジャの交通事情から、いつも色々考えてしまいます。
 最初は、こちらの運転はカオスに見えて、非常に危ないと思っていました。そのうち、単なるカオスではなく、法則性が見えて来ました。どうして、時に逆走したり反対車線を走ったり、急に割り込みしてきたりできるのでしょう?それは、そうしたことが起こっても、周りが合わせてくれる、という暗黙の了解があるからです。こちらの交通は、その前提の上で成り立っています。それは、信頼と言ってもいいかもしれません。
 もし、周りの人が合わせてくれなかったら、事故が起こるかもしれない、という不安を持たないのです。少々のことには、みんなが合わせてくれるからです。ジョグジャでは、誰かが輪を乱すことをしても、決して輪は乱れません。つまり、他の人がそれに合わせて、適当に輪を乱し、いい加減に輪を修正してしまうのです。日本だったら、輪を乱すのは勇気がいるし、輪を乱すと後ろ指を指されることが多いわけですが、ここでは、ちょっとやそっとでは、輪を乱せません。それは、みんなが合わせてしまうからです。
 これは、即興パフォーマンスをしていてもそうです。もし、誰かが、突然、変なことをして浮いてしまったとします。ジョグジャでは、まず、他の人がそれをフォローします。逆に言うと、少々変なことをしてもフォローしてもらえて当たり前、と気軽にパフォーマンスできる安心感が、この国にはあります。逆に、自分で投げたボールを、誰にもフォローしてもらえないと、迂闊に無責任にボールは放れなくなります。そうした社会では、輪を乱すには、それなりの覚悟と見通しを持って行動することが望まれるわけです。
 4月11日のパフォーマンスでは、ジャワ人のパフォーマーが、特に見通しもなく投入するアイディアに対して、日本人のダンサーや俳優が、フォローしたり、しなかったりしました。ジャワ的には、100%フォローしてもらえる前提があるでしょうし、日本的には、自分で投げた球は自分で責任を持って何とかするだろう、という予測があるわけです。そうした違いの中で即興が進んでいくのは、異文化の出会いの場で、とても面白いなぁ、と思いました。