野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

プールの音楽会 リハーサル

愛知芸術文化センターで行われた高校生の合同文化祭にゲスト出演(あいのてさん)した後、あいちトリエンナーレ2010の参加作品「プールの音楽会」のリハーサル。

集まった演奏者は、打楽器奏者やサックス奏者など音楽家が多かったのですが、音楽は専門ではないが水泳ならば自信がある、という人もいました。泳ぎが得意な人が3人いるので、その3人の特技は活かす方向で考えていこうと思っています。

床に座布団を並べて、寝そべりながら、プールをバタ足で進んでいるのを想定して「バタ足クインテット」のリハーサルをしたり、プールに入っている状況を想定して、各自が、水の入ったバケツを用意し、その中にリコーダーを入れながら演奏したり。さらには、芸術文化センターの職員さんの自宅からやってきた竹筒も大活躍。非常に味わい深い音楽が、次々に立ち上がってきて、8月28日のコンサートに向けて、かなり良い感触が得られています。

しかし、実際にプールに入ってやってみないと分からないことがいっぱいです。例えば、「バタ足クインテット」では、休符の間はバタ足をしないのですが、バタ足をしないと沈んでいってしまうのではないか、という水泳専門家からの指摘がありました。ただし、ビート板をうまく使えば、大丈夫かも、との指摘もあり、実際にプールでやってみるまでは、どんな音楽になるのか、想像はできるのですが、実際のところは分からないのです。ドキドキです。

野村誠 「プールの音楽会」
NOMURA Makoto 《Concert in a swimming pool》


 名古屋の夏は暑い。それも、堪え難い蒸し暑さだ。「あいちトリエンナーレ2010」のために、野外プロジェクトの委嘱があった時、あの蒸し暑い名古屋の夏に、野外で一体何ができるだろう?と考えた。ぼくは、名古屋出身で、高校生までの18年間、毎夏、名古屋の猛暑を経験している。夏の思い出を、少しずつ紐解いていくと、プールのイメージが浮かび上がってきた。
 ぼく自身、プールには、あまり良い思い出がない。そう、ぼくは、かなづちだった。体育の授業の水泳ほど憂鬱だったことはない。正直、雨が降って水泳が中止にならないかなぁ、と祈っていた。水に顔をつけることが恐怖だったし、「眼を開けなさい」と先生に叱られるのは、トラウマだった。それでも、先生は情け容赦なく、ぼくに泳げと命じる。恐怖だ。気力を振り絞って、思いっきり息を吸い込み、死に物狂いでバタバタと全身を動かして泳ぐ。泳いでいるのだか、溺れているのだか、分からない。寒くて震えているのか、怖くて震えているのか分からないが、水泳中のぼくの手足は、いつも青ざめていた。溺れそうになりながら、力尽きるまで泳ぎきる。そして、辺りを見渡し愕然とする。また、たったの5メートル。5メートルの壁がどうしても破れなかったのだ。どうして、ぼくだけ泳げないのだろう。そして、そんなぼくの泳ぎを、友人たちはゴジラが暴れているようだ、と笑っていた。
 そんな夏の思い出から、ぼくは敢えて、苦手なプールを新作の舞台に選んだ。水泳は苦手だが、水の音は好きだ。あんなに苦手だった水泳も、音楽だと考えたら、ぼくだって泳げる気になってくる。バタ足はパーカッション。息を吸うのも楽器の息つぎの要領。水泳の動きは、楽器を演奏する動作。音楽が空気を振動させるように、音は水も振動させる。恐怖で満ち溢れていたプールが、音楽をする創作の場に変わる。
 ということで、プールで音楽がやりたい、と提案してみましたが、こんな真夏の稼ぎ時に、プールを借りることができるのだろうか?実現は難しいかもなぁ、と思っていたのですが、名古屋の栄のど真ん中、高層ビルの立ち並ぶ中に、富士中学校のプールがありました。
 演奏する水の音は、決して大きな音ではありません。耳を傾けて、自分の好みの音をキャッチしてみて下さい。また、遠くを走る車の音も、自然に水の音と交わって音楽になればなぁ、と考えております。炎天下の中、暑いですが、日傘や帽子で陰を作りながら、「プールの音楽会」をどうぞお楽しみください。


http://aichitriennale.jp/artists/performing-arts/akoto-nomura.html