野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

老人との音楽@近江八幡

今日から2日間、近江八幡にあるボーダレスアートギャラリーNO-MAのディレクターはたよしこさん企画による老人にフォーカスを当てた展覧会のための撮影。野村幸弘さんと。もとギャラリースタッフの錦織さんと現スタッフの西原さんと回る。

1日で3つの家を訪問し、何らかのコラボレーションを模索する旅。

1軒目は若干64歳の夫婦で、老人という括りには若すぎる夫婦を訪ねた。夫は会社づとめのコンピュータプログラマーだったが、50代でアンティーク家具屋に転向し、現在は様々な木工を楽しみ、ヴァイオリンもチェロもカヌーも自作で作ってしまう。家にはパイプオルガンもあり、その鍵盤も卓袱台を使って作ったとのこと。ここで、チェロやオルガンの既製曲に合わせて、ぼくは即興で鍵ハモを演奏したりのセッションなど。

2軒目は、80代半ばの男性で、会社員時代に海外勤務で、インドネシアやタイに長く住んだことがある方。とにかく、延々とお話を聞く中、途中で、そのお話に合わせてぼくが鍵ハモを演奏するセッションがよかった。あと、アンクルンを使って鍵ハモを演奏する奏法、発明。タイの踊りも踊ってもらい、それに合わせた即興演奏をしたり。

3軒目は、90近い独居の男性。体調を崩されていてベッドに横たわっていた。この方は、写真屋さんの仕事をされていたそうで、つい6月に完成させた日本画の絵画作品があった。目が悪くなってきたし、これが最後の作品だと言っていた。とにかく、ぼくが演奏をすると、黙って聴いてくれて、その後、自分の生涯を、非常に簡潔に15分ほどで語ってくれた(3回の結婚、戦争のこと、写真屋をやっていたこと、ヤギや犬やにわとりを飼っていた話、肺結核で入院した30代の時に聖書に出会ったことなどなど)。そして、ぼくに手渡すために用意してくれていたメッセージ(沖縄戦で中学校の同級生のほとんどは死んだことなどなどが書き綴ってある)を見て、このまま帰るわけにもいかず、もう一度だけぼくが演奏をした。彼は握手を求めてきて、ぼくはお礼を言い、握手を交わし、外に出た。そこには、夕焼けがあった。