野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

東京境界線紀行

今日は、マイノリマジョリテ・トラベルの東京境界線紀行「ななつの大罪」を見に行きました。この公演は3幕構成になっていて、第1幕は「バス・クルーズ」、第2幕は探検クルーズ、第3幕はステージ・クルーズです。詳しくは、
http://www.mimajo.net

さて、第1幕は都バス貸切のバスガイド付きの20分程度の小旅行だったのですが、最後に終点に着いたときに、ドラマが起きました。該当する人はボタンを鳴らして降りるというルールが示されたのです。なぜか、このルールに違和感を感じたぼくは、最後まで降りないでいようと思ったので、自分に該当しそうなことを言われても、降りませんでした。「職業はバスガイド以外である」と言われて、「バスガイドでもあります」と答えたり。「週3回以上焼肉を食べる」と言われて、「そんなこともあるかもしれない」と答えたり。そうしているうちに、ぼく以外の人は全員降りてしまいました。そして、ぼくは一人ぼっちになったのです。ルールに従って降りた人たちが多数派だとすれば、降りないぼくはマイノリティです。そして、「高所恐怖症である」と言われて降りないときに、「高所恐怖症だろ、うそつき」と言われ、それでも降りないぼくは、四面楚歌になっていきました。こんなところに多数派と少数派の境界線があるのか、そして、降りないぼくがルール以外の方法で降りることはできないのかなぁ?と思いましたが、ルールはルールとして存在するのです。

ルールというのは、いつもマジョリティの都合でできていて、そのルールに当てはまらないマイノリティがルールに異議を唱えるわけです。そして、時にマイノリティの意見がマジョリティに届いて、ルールは修正されるわけです。そうして、男女の結婚しか認めない法律が、同性同士の結婚を認める法律に変わっていくようなことが起こります。で、このルールが変わる瞬間がどうやって訪れるのだろう?と、ぼくは思いました。でも、バスガイドさんは、ルールに基づいて動いているようだったので、ぼくの方から、「ボタンを押さずにバスを降りていいですか?」と質問して、バスを降りました。すごくリアルな演劇に遭遇した、すごくリアルにマイノリティとマジョリティの境界を感じてしまいました。

第2幕は自由行動ということでした。せっかくなので、行き先を考えずに都バスに乗ってみました。

第3幕は、渋谷のスペースエッジ。会場に着くと、4枚のシールを渡されて、4つの出来事に関して、2次元の座標軸上のどこに自分が位置するかをシールで貼るように言われました。9・11に関してとか、20歳年下の恋人のこととか、サリン事件などのことがあがっていました。その座標軸のどこに貼ろうかと真剣に考えれば考えるほど、ぼくは、その白い紙の外にシールを貼りたくなりました。そして、地面にシールを一枚、少し離れた照明機材に一枚、と貼っていきました。自分がアウトサイダーと感じているわけではありません。ただ、言語化された座標軸の中に自分の感情を位置づけることに、なんだか抵抗を覚えたのです。これも一つの境界線を越えていく瞬間のような気がしました。また、自分に気づける時間でした。

会場に入りますと、客席がある劇場パフォーマンスですが、舞台と客席は同じフロアでした。そして、パフォーマンスが始まると、舞台上では笑い声のような声をみんな出しているのに、客席では、みんな静かにしています。境界線を巡る旅へようこそと言われていると、この舞台と客席の境界線というものが、露骨に見えてきます。この境界線のどこにあなたはいますか、という問いかけられているように感じたぼくは、気がついたら客席で大声を出していました。客席で声を出していたら、舞台上のパフォーマーがぼくの前に顔を見せました。ぼくと彼女の間の距離があって、どうしようと思いましたが、目を合わしてきたので、前の観客を乗り越えて、さらに一歩前に出ました。そして、見ず知らずの初対面の人の鼻先と、ぼくの鼻先が触れ合いました。しかし、ぼくは舞台に出るわけにもいかず、客席に戻るわけにもいかず、その境界線に行きました。観客席と出演者の出入り口の間で、席もないので、ずっと立ち見になりました。

パフォーマンスは出演者一人ひとりの存在感と、リアルなフィクションに魅せられました。そんな中で、ぼくは太棹三味線の田中悠美子さんが気になりました。田中さんと会うのは、5年ぶりくらいです。他の出演者が自分自身として存在しているインパクトの中で、田中さんはこの舞台の中で、自分としての居場所を見つけているのかなぁ、ちょっと物足りないなぁ、と感じました。

逆に言うと、それだけ他の出演者の存在感が際立っていたわけです。

とにかく、いろいろ考えさせられる素晴らしい公演でした。