野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

ホエールトーン・オペラ第4幕しょうぎ再解釈

昨日に続いて、朝から夕方までは、ゲストミュージシャンによるリハーサル。今日は第4幕を全部確認。第4幕は、ジャマイカなので、第1楽章はレゲエ調の曲。Cowは女声だけどlowとスペルが似てるから低い声で、Hippoは男声だけどhighとスペルが似ているから高い声で。キャロルのジャズヴォーカルと山川冬樹さんのホーメイの掛け合いの曲になる。

2楽章は、ダンス。古典的にはメヌエットとトリオ。今回参加のメンバーはイギリスで4幕に参加している人ばかり。新しい味付けをできるのは、日本側のメンバーだ。8分の5拍子のオリジナルの曲の後に入るもう一つの場面を、有馬さん、菊地さんに、やってもらった。エレクトロニクスと十七絃によるフリーインプロ。すごく面白くなってきました。

3楽章は、緩徐楽章。ここは、女声とヴィオラの伴奏+男声と鍵ハモの伴奏というミニマムな編成にしました。その方が、次の第4楽章のGrand Finaleが生きるからです。

そして4楽章です。Peteは枠組みを作りたがる人で、劇の流れはどうなのか?どうやって構成するのか?と尋ねて来ました。4楽章は、結婚式のシーンです。おめでたいこともあるし、色んな慣習もあるし、結婚とは何か、という問いもあります。しかし、そんなことを横に置いて、我々のやって来た3年間がかりのプロジェクトの最後にやり残したことはないか?今、この貴重な時間に何を一緒にしたいのか?これが、本当の問いです。ぼくは、何をしたいかを聞いて、やりたいことを書き出しました。これを全部盛り込む曲を作る。そして、どう構成するかは、ぼくたちだけでは決めずに、ワークショップのメンバーと相談する。相談するために、それぞれのアイディアをもっともっと練り上げておく、それがぼくらの仕事です。

そうやって、様々なアイディアを試しました。カバのモテット、エレクトリック・ウェディング、しょうぎ作曲の再解釈、グラフィックスコアのコラールなど。

しょうぎ作曲は、2年前の楽譜を再解釈しました。同じ楽譜で、しかもイギリス人には日本語の意味も分かりません。それを古文書を読むように解釈するように頼みました。これは、多分横に読むのだろう。多分5パートある。ここはきっと弦楽器のパート、ここはスピーチ、ここは、コンピューター、などと解読していきます。こうして、出てきた再解釈は、原曲とは全く違った曲で、そこにいたメンバーのみんなが鳥肌が立ちような体験をした。生まれ変わったのだ。再生。

そして、夜ワークショップのメンバーと、このフィナーレの素材を色々やりました。コラールの図形楽譜を一人一本ずつ線を引くことで作りました。それは、有馬さんとヒューはメシアンのようだと言い、別の人は雅楽のようだと言った。指揮をするのが大変で、とても覚えられないリズムの曲は、不思議で儀式的で独特なハーモニーで、そこに、さらにヒューが言うところのリゲティ、ペンデレツキ、コーネリアス・カーデュー的な「どうやって実がなるの」の合唱のトーン・クラスターが重なるのを試しました。何かが生まれそうな予感です。とにかく、仮に決めた構成で試しにフィナーレを通しました。そこで感じた問題点を元に、修正案を考えました。みんなからもらえるだけ意見をもらいました。「後は、野村が今晩考えてきます!」、残りは、ぼくの仕事です。真実を見つける作業です。

それと、第2幕の「しょうぎコーラス」を丁寧に練習しました。この曲がきちんとプレゼンテーションされることは、本当に重要なのです。これは、かなり良くなりました。

最後に、第2幕のストーリーを説明するのに最低限必要な言葉を相談しました。これで、2幕もバッチリです!

そして、ホテルでヒューときちんと打ち合わせをしました。二人での意思疎通をきちんとしないと、崩壊します。明日のワークショップをどう進めるかの確認です。フィナーレの曲の構成を明確にしました。明日のワークショップの9:00−9:20に、フィナーレを通し、この曲を通した時に、それぞれの人の心にどんなイメージが残ったかを、ワークショップ参加者一人一人に紙を配って書いてもらおう、と思いました。

どうしてそんなことを思ったか、と言うと、2年前、1幕のワークショップの初日に、ぼくらは参加者一人一人に紙に何かを書いてもらいました。ここが出発点になって、ホエールトーン・オペラという旅に乗り出しました。2年経って、明日が最後のワークショップです(土曜のリハーサル、日曜の本番がありますが)。最後のワークショップの最後に、そして、4幕の曲の最後の曲の最後を聴いた時に、何が残るのか?そこに書き留められた言葉で、何かが起こる、とぼくは信じています。その何かを探しに、明日、ぼくはえずこホールに行きます。それは何でしょう?

明日には井上信太くんが到着です。本番まで、あと3日。