野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

ほうき星プロジェクト

大阪のcocoroomで、ほうき星プロジェクトのワークショップに行く。ほうき星プロジェクトはエイブルアート・オンステージ参加事業で、ちらしの言葉を引用しながら説明すると、「肢体不自由者とか、何か問題のある人とかのスーパーグループ 『ほうきぼしブラザーズ』!」が、「肢体に障害をもつ人たちを中心に、こえとことばを使って表現する舞台作品 『こまいぬ に ほうきぼし』」を「身体、詩、音楽、映像とか、その全て」で追求しているプロジェクトらしい。本番は、2006年4月1日(土)と2日(日)14:00open 14:30start 
詳しくはこちらへ http://www.kanayo-net.com/cocoroom

cocoroomは、最近「就労支援カフェ」と名乗っているらしく、今日も「ニートなんですけど、この就労支援カフェってどんなのですか?」と質問に来た人がいた。

で、車椅子に乗った「ほうきぼしブラザーズ」7名ほど+介護スタッフ数名が集まって、最初、今までに練習してきた歌を聴かせてもらった。これはこれで、味があって、でも、カラオケ大会に近い感じで、もっとアレンジを練った方が面白くなると思った。今日は雨だったので、テルミンやキーボードなどの楽器がなかったせいもあって、いつもよりサウンドが貧弱だったらしい。

その後は、詩人の上田假奈代と一緒に、それぞれの人が自作の詩を朗読したので、ぼくはそれに合わせてピアノを弾いた。これは、一人ひとりの体験談(初恋の話とか)に基づくし、それぞれの人の詩の読み方の間合いや個性が見えて、かなり面白かった。 

最後に、なんとなく楽器での即興セッションになって、これもいい感じだった。

これまでの経緯を聞いたところ、最初の頃は声による即興表現をいっぱいしていたらしいが、利用者さんたちから「訳分からん」と言われて、途中から声の即興を封印して、歌を歌うことにしたらしい。

それを聞いて、勿体ないなぁ、と思った。「訳分からん」と文句を言っている人は、ひょっとしたら、訳分からんことを楽しんでいたかもしれないし、訳分からんことに不安を感じながらも、ちょっと珍しい体験が少しずつ楽しみに変わっていったかもしれなかったのに、と思った。

ぼくがそう思うのは、老人ホームでの体験があるから。1999年の軽費老人ホームでのワークショップで、第1回目から、「年寄りには作曲はできない」、「年寄りには昔ながらの民謡がいいのです」と、お年寄りは共同作曲を拒否した。でも、ぼくは頑固に、「ぼくは作曲をしたくて来たんです」としつこく食い下がった。民謡が歌いたいと主張したお年寄りは、2回目には来ないかと思うと、ちゃんと民謡の本を持参して、ぼくを待ち構えていた。そして、民謡をやりましょう、いや、作曲を、とお互いの主張を譲らず、何回もワークショップが過ぎた。それでも、ぼくと意見が噛み合わないこと自体を楽しむのか、民謡をやろうと主張するお年寄りは、毎回のようにやって来た。そして、結局、妥協案「作曲はできないけど、私たちのイメージで作曲してくれるなら、聴いてもいい」=「似顔曲」が生まれ、最後には、皆さん似顔曲づくりに、積極的に参加してくれた。

だから、文句を言ってるから、と言って、全面的に主張を受け容れなくてもいいと思う。却下され続けても、「声の即興をやりたい」と、もっと食い下がってみたらいいのでは、と提案してみた。