野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

岡倉天心


珍しく早起きをして、ワタリウム美術館へ。寝ぼけて到着。午前中は、幼児20名+小学生40名の60人のためのワークショップ。3歳から11歳までいて、どの年齢にターゲットを合わせてもダメだし、まぁ、様子を見てやることにする。会場は、ワタリウムの近くの廃校になった中学校の体育館。

で、来るなり、子どもたちは体育館を走り回ったり、ボールで遊んだり。で、最初に自己紹介代わりに鍵ハモを演奏。「サザエさん」から始めて、だらだらと即興演奏していたら、そのうち子どもが
「そんなのサザエさんじゃない」
とか
「そんなの雑音だ」
とか言い始める。
「バカ!」
とか言い始めたので、しめしめ。別の子どもが、
「バカ音!」
という単語を発明したので、
「じゃあ、バカ音やろうか。」
と言ったら、
「バカは、ぼくの行ってる幼稚園では、悪いことなんだよ。」
と子どもが言う。そこで、
「芸術家とか、音楽家とかの仕事では、バカなことをやることが、大切だったり、いいことだったりするよ。美しい音楽とか、悲しい音楽だけじゃなくって、バカな音楽も、雑音の音楽も、いろいろあっていい。で、今日はバカ音をやろうか?」
とバカ音を取り上げる。しかも、今日のワークショップ開始前にエレクトーンの足鍵盤をボールで演奏して怒られていたことを取り上げて、これもバカ音かも、と紹介して、ボールでエレクトーンの鍵盤を演奏したり、ピアノの鍵盤に(柔らかい)ボールをぶつけて音を出したりしてみた。

その後、
「鍵盤ハーモニカにボールをぶつけたらバカ音」
という子どもが出たので、それをやってみたりして、そのうちドッヂボールとバカ音をどう組み合わせるかを検討。2チームの境界線上で、ぼくが鍵ハモで妨害して、バカ音が出たら、アウトというようなルールで3歳から11歳まででドッヂボールをした。普通にドッヂボールすると、この年齢差では危ないが、真ん中にバカ音妨害者がいるから、思いっきり投げることもできず、ゲームとしても成立。ぼくも、かなり運動になった。

その後、発展バージョンで、エレクトーンをコートの脇に置いて、一人の男の子が延々即興ソロ演奏をするバージョンになったり、楽器つき鬼ごっこをやっみたりした。

それだけ暴れ回った後に、ピアノで「Intermezzo」を演奏することにしたら、みんなすごい至近距離まで寄って来てくれて、そして、すごく耳をそばだてて聞いてくれた。
「たぬきときつね」も激しく演奏した。
「お巡りさんみたいに、ルールを守らせる仕事の人もいるけど、芸術家はルールを変えたり、新しいルールを作ったりするのが仕事です。だから、作曲のルールを作ったりすることと、今みたいにドッヂボールのルールを作り替えていくことは、まぁ、同じようなことなんです。」
というような締めの言葉を一応、最後につけて終了。

打ち合わせの内容は、4月2〜4日のワークショップと、7月に行うオルガン曲の初演に関するもの。この打ち合わせは、本当にうまくいった。
「完成した作品には、子どもは演奏に加わらないんですか?」
「この場合は、純粋にオルガンソロ曲とした方が、明解だと思うんです。」
「でも、その場合に、子どもの関与が曲にどう反影されたのかが、当事者以外に見えにくいのではないか?」
といったやりとりがきっかけで、30人の子ども一人一人が、1フレーズを作曲する。そうすると、全部で30のフレーズができる。3人のフレーズを使った小品を野村が10曲作る。そうすると、各曲の冒頭に、「たけし、けいこ、みずほ」といった感じで3人の名前、フレーズ、自画像を付けた楽譜が作れる、という案が思いついた。
「そういう楽譜ができたら、子どもたちも演奏したいと思う」
そこで、それぞれの曲にピアノでも演奏可能な簡単なプレリュードをつけることにした。「プレリュードとフーガ」みたいな「プレリュードと〜〜〜」のようなタイトルの10曲からなる曲集ができるな。

それから、ワタリウム岡倉天心展を見に行った。岡倉天心の文字がとってもチャーミング。岡倉天心って、東京芸大創始者くらいで、別に何も興味を持っていなかったが、25歳で初代の校長になって、36歳で追い出されてフリーになって、その後、海外と日本を行ったり来たりしていて、51歳で没。その言説は、かなり過激でこの展覧会は大変面白かったので、お薦め。100年前の人とは思えないほど新しい。