野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

ストーリーできる(ホエールトーン3日目)

正午までホテルでのんびり過ごす。ぼくは、11時半まで爆睡。ヒューは、2時間外をハイキングしたらしい。昼食後、えずこホールへ。ワークショップが始まる前に、ちょっとアレンジなどしよう。昨日の書道グニャグニャ曲線から作った2重唱に合わせて、ソプラノ歌手の名倉さんのためのソロパートを作ることにした。もちろん、これも書道の曲線から選んで創作する(えずこホールの佐野さんに選んでもらった)。そうやって解読していくと、すぐにソプラノパートの作曲が完了する。さっそく、それを5線譜に書き直して、名倉さんにファックス。

ホエールトーン・オペラ」ワークショップでは、野村誠Hugh Nankivellという共同作曲のスペシャリスト二人がやっているのだから、できるだけ違った作曲の方法を試してみたい。そこで、1幕や2幕でやった手法はできるだけ封印して、3幕で初めての方法を導入しよう。今日、新たに次の活動に取り組むことに決めた

1 合唱曲を作るルールを発明すること
2 書道の曲線を切り貼りして絵(具象)を作り、そこから物語を考えること
3 黒と白の音楽(黒鍵のみの小節、白鍵のみの小節)
4 ミュージカル(キャッツ?)風の歌をつくること

さて、7時。まずは、昨日の録音をみんなで聴いてみる。そして、グループごとに作った一場面を取り出して、その曲を全員でやってみたりした。続いてヒューの「指揮123」をやった。
指揮者が「1」と合図をしたら「持続音」、
「2」と合図をしたら「反復するリズムパターン」、
「3」と合図をしたら「デタラメ語で会話」、
というルールで、ヒューが指揮をして合奏。続いて、指揮者なしで自分で「1」、「2」、「3」、「やらない」のどれかを判断してやることにした。これは、単にルールを設定してやる合唱の一例として示したつもりだったのだが、やっているうちにメンバーがどんどんハイテンションになって壊れていったので、ぼくは、これに合わせてピアノを弾いて、もうちょっとゴチャゴチャにして、
「じゃあ、近寄っていって!それで、誰か近くの人のを真似してみて!」
と叫んでいた。それで、全員を一度止めさせた後、同じものを歌っているであろうグループごとに、歌うように指揮して促しながら、それぞれを単体で聞いてみたら、すごい面白いし、エネルギーがあって、よかった。これはこれで、生かせそうだなぁ。思わぬ収穫。いつの間にかルールを壊して、曲ができていく。「ルールは破られるためにある」って、タイのアナンの部屋に掲示してあったしね。

で、こういう単純なルールだけで、声楽曲が作れないか、各自でルールを考えて、紙に書いていくことにした。
「カバの音楽と名づけましょう。でも、カバのことをあんまり気にしなくていいですよ。」
みんなが紙に思い思いのルールを書き加える。それを集めて、くじびきのように引いて選ばれたものを順番に試してみる。

最初に選んだ紙には、
「鼻の穴をふくらませる」
とあった。みんなで鼻の穴をふくらませたが、これだけではどうにもならないので、2枚目の紙を選ぶと、
「眠たそうに歌う、音を出す」
とある。そこで、いびきのような声を全員でやって、合図が出ると、声を出すのを止めて鼻の穴をふくらませる、というのをやった。

次に選んだのは、「あ〜〜〜」と持続音を伸ばし、誰かに肩を叩かれたら、「あ・あ・あ」と3回言って静止する、というルールだった。これは、「あ〜〜」と言っている間だけ動き回れるというルールにして、動き回りながらやった。

続いて選んだルールは、
「口と目を閉じて出す音と口と目を開いて出す音を交代で」
というもの。これは、持続音ではなく、断続音でやってみた。演奏者全員が、目を大きく見開き口をバカでかく開けて声を出したり、目をつぶり口を閉じ声を出す。これを各自が自由なテンポでやる。全体としてできる音、ビジュアル、ともに面白く、笑いが絶えなかった。大成功。かなりいい。

最後に選んだルールは、オセロゲームスタイル。同じタイプの音を出す二人に挟まれた人は、何か新しいフレーズを歌い始め、挟んだ人は、ストップする。後は、誰かのを真似したくなった時に真似をする、というルール。自分と同じのを歌っている人と挟みに行くのが、不思議な快感。これで、8時半。10分休憩にすることにした。

休憩後は、昨日習字セットで描いた楽譜というかグチャグチャの線を、はさみで切って、セロテープではっつけて何か具象絵画を作ってください、という活動。
「時間ないし、15分でさっとやって下さいね。」
色んなものができた。

日没、波、鳥、山、温泉、生き物、流氷、梅、鶯、外が嵐で家の中、貝、リボンをした女の子、熱唱する人、日本地図、仮面舞踏会、生きてる怪しい楽器、シマウマ、かかし、深海魚、一本足で羽のある妖術使い

ここで、ヒューが作りかけた「Black and White」という歌を説明し、演奏。ブラックプールで、黒い水で、墨汁になったので、黒と白の音楽を作ろうと考えた。黒は黒鍵だけ、白は白鍵だけ。中間部は、黒と白を3つずつのホールトーンスケール(全音音階)で、これはホエールトーンと似ているから。
「でも、せっかくだから、ホールトーンに似てるけど違うホエールトーン・スケールを作ろうよ。」
とぼくは提案。

最後に、
「今から5分で、キャッツみたいなミュージカル風の曲を強引に作ります。」
ぼくはピアノに座り、ヒューはギターを持ち、強引に曲作り。あっという間に、A-durの曲を70%くらい作り上げて時間切れ。
「じゃあ、続きは明日にして鍋にしましょう。」

えずこホールの会議室で、懇親会・鍋パーティー。スタッフの皆さん、準備ありがとうございます。いろいろ、メンバーの歓談もあって、いい感じ。明日から、梅津和時さん(サックス・クラリネット)、山川冬樹さん(ホーメイ)、名倉亜矢子さん(ソプラノ)という音楽家3人が加わる前に、こうやってメンバー同士で打ち解けられてよかった。

で、鍋パーティーの最後に、第3幕のストーリーをみんなで考えた。それは、こんな話になった。

ブラックプールにカバが辿り着いた。海の水は、公害で汚染されて真っ黒だった。そして、汚染された貝や深海魚を食べた殿様は、病気になってしまった。殿様の病気を治したものには、褒美が出ることになった。流氷に乗って、一本足の妖術使いがやって来たが、治らなかった。妖術使いは罰として案山子になった。梅の森に住む妖精が温泉に連れて行ってくれたが、治らなかった。熱唱するシンガーが音楽療法で治そうとするが、治らなかった。針で治そうとするが、効果なし。そこで、殿様は、最後の頼みの綱、生きる楽器に頼んでみた。すると、楽器はカバに電話をして、ブラックプールの黒い水で習字をするように言った。カバが一筆線を引くと、鳥に変わって飛んでいった。もう一筆描くと、シマウマになって走っていった。そして、次にもう一筆描くと、リボンをした女の子になった。女の子の愛の力で、あっさり殿様は元気になった。殿様の回復を祝って、海岸で仮面舞踏会が催された。

こんなのこのまま日曜日に上演できるかどうか、分かりませんが、一応、たたき台のストーリーは完成。ここで、鬼は外、福はうち、とやって、解散。

ホテルに戻って12時ごろ、岡崎香奈さんから電話。明日、片岡祐介さんとぼくの新曲「クツガエサー音頭」を初演してくれる。岡崎さん、阪上さん、片岡さん3人とも飲んでいて、かなりご機嫌。初演前の上機嫌な飲み会。うん、初演は聞きにいけないけど、いい演奏、楽しみにしてるよ!