野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

最後の電王戦もおわる

京都に戻って参りました。

将棋の佐藤天彦名人が、コンピューターソフトのPonanzaと対局する将棋電王戦が行われ、コンピュータ将棋の圧倒的な強さの前で、清く自身の将棋を貫いて破れる佐藤名人の姿がありました。将棋の名人の中で、今の時代に生きた佐藤名人以外には、誰も体験することのない歴史的な大役であり、必要な儀式でもあったと思うのですが、様々な葛藤がある中で、非常に勇気づけられる大変美しい姿でした(ネットで観戦した限り)。敬意を表します。

京都に戻る電車の中でもヘンリー・カウエルの伝記を読んでおりましたが、この本で、既に読んだ中で興味深いエピソードを2つ

1)独学で作曲していたカウエルが、チャールズ・シーガーにレッスンを受ける際、シーガーは3つの選択肢を示した。?自由な作曲をやめてアカデミックな訓練を受ける、?自由な作曲を続け、シーガーは一切教えない、?自由な作曲とアカデミックな訓練を両立させる。(結局、?になる)

2)カウエルが22歳の時に、ラフマニノフに自作のピアノ曲を見せた。すると、ラフマニノフは注意深くスコアをチェックした後に、41カ所に赤丸をつけて、「君の曲には41個、間違った音がある」と言った。カウエルは「どうして間違いだと思うのですか?」と根源的な問いをすると、ラフマニノフは「和声法の規則に合致しないから」と答える。カウエルが「今日の作曲家が和声法のルールに従わないといけないと思うのですか?」と、核心をついて問い返すが、ラフマニノフは「和声学は神聖な規則なのだ。ぼくも若い頃は、間違った音を書いた」と答えた。