野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

テンション&リリース

野村幸弘さん撮影のマレーシアでの即興音楽コラボレーションの映像をチェック。4ヶ月前の軌跡のような出来事で、本当に達人の素晴らしさを感じました。

幸弘さんは岐阜大学教授で、イタリア美術史が専門で、画家で映像作家で、大変脱力のできた方であり、多くの仕事しておられる多才な方です。ある時、肩こりをやめようと思って以来、肩こりがなくなったそうです。

アナン・ナルコン、ヨハネス・スボウォ、カムルル・フシン、尾引浩志片岡祐介竹澤悦子、元永拓との即興セッションの映像を見返してみると、心も体も脱力していて、集中力が途絶えず、非常にテンションのある音を発しながら、究極のリラックス状態で演奏しているのです。即興の奥義というのは、脱力にあり、脱力しているから、どんな球が飛んで来ても、打ち返せるのだなぁ、と思いました。

楽器を演奏する時にも、脱力が大切と良くいわれます。力が抜けていないと体がスムーズに動かないし、効率よく力を楽器に伝えることもできない。ところが、いざ脱力をしようと意識すると、かえって力は抜けないものです。それで、力を抜く方法として、逆に力を抜かずに動き続けてみることを、ぼくは推奨していたように思います。なぜなら、人間そんなに全力でい続けることはできないので、そのうち自然に力が抜けてくると思っていたからです。脱力を意識すると脱力できないので、意識して力を入れているうちに、無意識で脱力できる状況を良し、と思ったわけです。

ぼくは、共同創作のワークショップなどをする時、最初に敢えて緊張感がとれるようにしませんでした。アイスブレークと言って、緊張を解くためのウォームアップなどはしませんでした。別に、緊張で始まっても、いずれ弛緩へと向かうので、緊張を味わう時間を大切にしていました。多くの人は、そこで居心地の悪さを味わうこともありましたが、その居心地の悪さから、居心地の良さを、各自が探っていく過程で得られる関係性を、ぼくは美しいと思います。自浄作用、自然治癒力、自己治癒力などと言われるものも、そうしたものなのかもしれません。

ところが、時代が変わり、世の中のストレスがどんどん多くなってきています。全力で動き続けて、過労に苦しんだり、急に体が動かない鬱症状になったりする状況が増えています。テンションとリリース、緊張と弛緩。交感神経と副交感神経の切り替え。こうしたことが、難しい現代社会のようなのです。みんなで緊張感を味わえる古き良き時代ではないのかもしれません。朝稽古でぶつかり稽古をするお相撲さん達の身体は、脱力の境地に到るカタルシスがありますが、極度の緊張や、本気のぶつかり合いなどから始める時代ではなく、ゆったりとしたリラックスから全てを始めるべき時代なのかもしれない。山下残くんは昨年トークをした時に、「ハートウォーミングで世界は変わるのか?激しくいくべきではないか?」と問いを発していたけれども、砂連尾理さんのお灸じんわりが世界を変える「お灸革命」に可能性を感じています。

脱力は一日にしてならず