野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

選挙の結果を見て

選挙の結果を見て、思い出したこと。

2001年、ぼくは「DVがなくなる日のためのインテルメッツォ(間奏曲)」という曲を作曲しました。これは、DV(ドメスティック・バイオレンス)に取り組むカウンセラーの草柳和之さんから、作曲委嘱を受けたためです。草柳さんは、この曲のお披露目として、DV防止法施行の直後に大掛かりなイベントを企画されました。ところが、DV防止法施行の直前に、米英軍のアフガニスタン攻撃が開始され、ニュースでは、戦争の映像ばかりになり、DV防止法についても、草柳さんのイベントについても、報道が皆無だったのです。その結果、当日の会場も空席が多く、戦争という暴力により、暴力をなくしていこうというイベントが、これほどの大打撃を受けていることに、ぼくは悲しく悔しく、何とも言えない気持ちになりました。主催している草柳さんの悔しさは、計り知れません。

しかしです。打ち上げで見せた草柳さんの表情は、忘れられません。今日、新しい曲が生まれた。これからなんだ、という力強い言葉に、どうして、落胆したり、愚痴ったりもせずに、この人は力強く前向きにいられるのだろう、と思ったものです。DVの被害者や加害者の方々のカウンセリングをされておられる草柳さんの辛抱強い姿勢と忍耐力、さらには絶望の中で光を見つけていかれる姿勢に、本当に感動したのです。

それから11年。今も世界には様々な暴力や矛盾が満ち溢れています。しかし、草柳さんは、訴え続けています。そして、ぼくが作った曲を、ピアノでも演奏し続けてくれています。ぼくも、あの日に感じた悔しさをバネに、今もこの曲を演奏し、この日のことを語り続けています。ぼくらは、しぶとく、へこたれず、七転八起、立ち上がり続けます。草柳さんは、今もシンポジウムなどの会場にピアノがあれば、彼の思いが溢れるような演奏で、この曲を弾き続けています。彼の不屈の忍耐強い生き方の溢れる演奏です。選挙の結果に落胆したので、この演奏を聴こうと思います。これも暗闇の中で輝く微かな力強い灯火の一つです。