野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

「地域での文化活動」から10年

龍安寺商店街の秋祭りに行って来ました。左京区から右京区まで、自転車で横断して7㎞の道のりの間に、下鴨神社相国寺北野天満宮などを通過。紅葉の美しさと、観光客の多さを横目に、龍安寺商店街に。観光客と地元の人々で賑わっていました。

ぼくは、10年前、京都女子大学の児童学科という所の先生をしていました。当時のぼくは、30代前半で(見た目は20代)、門衛さんに不審者と間違われたり、学生からは、「女子大なのに、男子生徒も受講できるんやろか?」と不審男子学生と間違われたりしました。子どもと音楽に関して、学生達と猛研究した充実の3年間でした。手作り楽器、指笛、手遊び、ボディ・パーカッション、歌づくり、パネルシアター、参加型音楽劇、共感覚、効果音、音楽療法、音楽での国際交流、遊びうた、さらには、発達心理学音楽心理学、保育実習や幼稚園実習の現場視察、保育問題研究会に参加したり、本当に勉強したなぁ、と思います。様々なテーマの卒論指導で、ぼく自身が、非常に勉強になった3年間でした。

充実の教員生活3年間をまとめるべく、大学を離れた翌年には、「音・リズム・からだ」という本を出し、その翌年には、NHKと「あいのて」という番組を21本作りました。本も番組も、その基礎は、彼女たちとの猛勉強でした。ということで、非常に感謝をしているのです。

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さて、そうした音楽の授業以外に、他学科との共通科目を受け持っておりました。1回生向けの「地域での文化活動」という講義で、これは、2年に一度担当すれば良かったのですが、30歳年上の同僚の方々から、「あんたにやって欲しい」と懇願され、ま、楽しいからいいかと、3年間とも、ぼくが担当したのでした。そこでは、子どもと音楽に限らず、もっと広いテーマで、講義をしました。ゼミ生でなくても、この講義を通して、親しくなった学生もいました。

そんな学生の中に、石に絵を描いて、その石を売りながら日本国中を旅し、そのお金を子どものために寄付する、という活動をしていた学生がいました。その彼女も、今では4歳児の母になっていて、コーヒー店で修行の後、近々自宅でカフェをやろうと準備中なのだそうです。今日は、商店街の秋祭りで、コーヒーやカレーを売るので、演奏して盛り上げに来てくれませんか、と声がかかったので、顔を見に行ったのです。行くと、当時の学生仲間がもう一人来ていて、ちょっとした同窓会気分になりました。

家の軒先に、縁台や碁盤を並べて、そこが小さなお店になっていました。隣では、キノコマニアのおっちゃんが、公園で見つけた野生のエノキダケを飾ったり、キノコグッズを並べたり、山で拾ってきた木の実を炒って振る舞ったりしています。ぼくが鍵ハモを吹くと、近所の子どもたちが、集まって来ました。ヴァイオリンの人がやって来て、スウェーデンの音楽と鍵ハモでセッションしました。寒いのに、自宅の扉は全開放して、子どもたちが遊んでいます。近隣の方々と、随分お話しました。

彼女がぼくの「地域での文化活動」という講義を受講したのが、ちょうど10年前です。あの講義をしている時に、10年後にこうした光景に出会うとは、予期していませんでした。みんなが、「地域での文化活動」を展開するための具体的なノウハウを教えたわけでもありません。ぼくは、ただただ、好き勝手に変なお話をして、刺激を与えていただけだったのです。でも、こうして、「地域での文化活動」が等身大で始まっているのを肌で感じられて、ああ、先生やって良かったなぁと、嬉しく暖かい気持ちになって帰って来たのでした。