野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

JFC作曲賞入選作品が発表になりました

このブログでも、審査について何度も書いていました第6回JFC作曲賞。本日、入選作品が発表になりました。

審査会の模様については、こちらをお読み下さい。
http://d.hatena.ne.jp/makotonomura/20110808

本選は、2011年11月11日(金)です。年も月も日も、全部11という1が6つ並ぶ日です。18:00開場、トッパンホールで行います。審査委員長は、三輪眞弘さん、審査員は、中川俊郎さんと野村誠です。一般3,000円、学生1,000円です。

http://www.jfc.gr.jp/index.html

本選に残った7作品は、こちらです。

今村俊博:「ヒ・ゲ・キ・テ・キ」−三人のフルート奏者の為の-
牛島安希子エスエスエス-幻影の音楽-
金澤恵之:組織・変容・再構築
木山 光:ハデヴィッヒ
大胡 恵:さよなら、わたしたちのキレイだったところ其之一
福島 諭:フロリゲン ユニット
宮内康乃:ミメーシス-複数の鍵盤ハーモニカのために-


ご興味のおありの方々、本選の場に、是非立ち合って下さい。学生券は1000円です。作曲や音楽を志す学生の方、是非来て下さいね。一般の方は3000円です。3000円は決して高くないと思えるスタイルの違う7作品ですし、出演する演奏者の数も膨大です。

皆さんに本選を聞きにきて欲しいので、宣伝の意味も兼ねて、ちょっとだけ、曲目のイメージが持てるように、非常に大雑把に作品のコメントをします。実際に聞かないと、どんな音楽かは本当には体験できませんし、作品について譜面を読んだだけで批評する気は毛頭ありません。あくまで公演を見に来るための手がかりとして読んでみて下さい。

今村さんの楽譜は、台本でした。3人のフルート奏者と3人の黒子から成る劇で、衣装や小道具や舞台上での動きの指定もあります。走っているフルート奏者が、もはや楽器が演奏できなくなっていったりもします。本当にこの作品は上演可能なのか、どんな風に上演できるのか?非常に興味深いです。

牛島さんの作品は、ヴァイオリン2人、ヴィオラ2人、打楽器4人の曲ですが、弦楽器の4人は、ほとんど楽器で音を出しません。ただ、演奏する仕草をしながら声を出す曲です。こうした動きが、どれだけ聞こえてくる音と重なり合って効果を出してくるのか。また、打楽器の音と無声音の「すーーー」とか「しーーー」という声の重なりが、どんなアンバランスを形成すると成功するのか。

金澤さんの作品は、ヴィオラ、チェロ、トランペット、トロンボーン、ピアノの5重奏。全体の構造が非常に複雑なシンメトリーになっています。独特の和声感と力強いリズムが、この構造で演奏される時に、演奏者や観客は、どのように緊張感を持続したり緩和したりして、時間を過ごして、全体としてどのように感じるのでしょう。

木山さんの作品は、アルトフルート、打楽器、ドラムセット、ピアノ、バリトンサックス、ヴァイオリン、チェロで、アンプで増幅し、爆音で歪んだ音で演奏して欲しいと指定のあるエネルギッシュで音の数の多い曲です。執拗に音を鳴らし続ける真っ黒な譜面の音の洪水です。この複雑な譜面を読んで、しかし、ロックやノイズの魂を持った演奏をしなければいけない曲です。どんな演奏になるでしょうか?

大胡さんの「さよなら、わたしたちのキレイだったところ 其之一」は、タイトルが示すように震災をテーマにした作品です。和楽器の呼吸で息を合わせていく響きが空間的に美しいと期待される作品です。竜笛、篳篥、笙、尺八、三絃、二十絃箏、大太鼓、びんざさら+和銅鑼+木証、コンチキという編成です。声も出てきます。

福島さんの作品は、オーボエ、2本のクラリネットとコンピュータで、木管楽器の美しい響きがコンピュータにより変調されていき、コンピュータと生楽器が非常に効果的に相互作用を行うことが期待されています。

宮内さんの作品は、鍵盤ハーモニカを10人ほどで演奏しますが、演奏者は決められた手順に従って、即興的なゲームを進めるように演奏しますが、鍵盤ハーモニカの高音域の重なり合いが生む美しい響きとチューニングの狂いが生む倍音などと、演奏者同士のコミュニケーションが音楽を形成していきます。コンサートでは、観客を取り囲むのか、ステージをどう使うのでしょう。

以上です。ちなみに、落選になった作品の中にも、素晴らしい作品、興味深い作品がもちろんありました。落選になった作品より本選に残った作品の方が優れているというわけではありません。ただ、今回選ばれた作品に、審査員がより冒険や挑戦を感じたと言えるかと思います。今回のこの7作品のセレクションは、非常に意欲的なプログラムだと思います。和楽器あり、コンピュータあり、演劇的作品あり、鍵盤ハーモニカあり、などなど。11月11日に、これらの作品を聴きながら、審査もしますが、日本の現代音楽の未来について、皆さんと一緒に考える場に立ち合えることが、何より楽しみです。