野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

イベントを作曲しなくっちゃ

 Pesan dari Jogja untuk Jepang(ジョグジャから日本へのメッセージ)を来週に開催すべく準備中。
 昼間、カオリさんが訪ねてくる。アメリカでジャズ/モダンダンスを学び、インドネシアでバリ/ジャワ舞踊などを学び、現在、アートと社会の関係などについても研究している。カオリさんは、インドネシアを多角的に見れる人だ。カオリさんから質問。
 「ガムランエイドの方のメーリングリストにも、24日の情報が流れて来たのですけど、あれは別のイベントなんですか?」
 「最初、別に動き始めていたのだけど、24日のも協力を要請して、全面的に協力してもらえることになったんですよ。」
ガムランエイドというのは、2006年のジョグジャでの震災でダメージを受けて再起不能になっていたガムランや芸術家を日本が復興支援したプロジェクトのことだ。5年前の震災で日本からいっぱい世話になったので、今度は日本を助けたいというジャワ人たち。オンさん(ニティプラヤンのコミュニティ・アートのプロデューサー)や、ジョハンさん(ジョグジャの芸大の音楽教育・音楽心理の先生)など、ガムランエイドで日本と関わったジャワ人が次々に24日のイベントに協力を表明し、イベントが肥大化している。2007年にジョグジャで行われた「マンディサマサマ」というイベントで、参加型の双方向なパフォーマンスが多数行われ、日本のアーティストが被災した地元の子どもなどを巻き込むパフォーマンスがあちこちで繰り広げられたらしい。そんなイメージも、彼らにありそうだ。それはそれで良さそうだが、拡散してしまうのが、ちょっと心配だ。日本にイメージを送るために、集中させたい。
 「みんなで一つのパフォーマンスを、スポンタン(自然発生的)につくる。そこには、みんなが参加することにウエイトを置いてる気がします。でも、今回のイベントの重点は、メッセージを日本に被災者に届けることが大切。日本の人に届けるためには、ごちゃっとした混沌の映像を編集しても、混沌になり、メッセージとして日本の人に見せられるものにならない。ぼくは、こういう状況を、整理したり、構成したりしていくことが得意なのですが、ジャワの人たちの目指しているものに、反するのかなぁ?どう思います?」
と、ぼくの迷いを打ち明ける。
 「野村さんが、柱や枠組みを作っていいと思います。枠組みがある中で、それにのってみんな持ち味を出してやれると思う。」
という意味合いの返事をカオリさんから来る。この言葉を受けて、パフォーマンスのコンセプトや叩き台を、ぼくが明確に打ち出そうと決意できた。とにかく、このパフォーマンスについて、客観的に責任を持って全体を構成できるのは、ぼくの仕事だ。出演する人が誰なのか、どんな人なのか、すら分からない状況だけど、それでも、出演する人々の表現が生かせる枠組みを作れる。それを作ることこそ、作曲家としてのぼくの仕事だ。
 夜、マミさんが訪ねてくる。マミさんは、芸大でジャワ舞踊を研鑽中。興味のあることに邁進し、興味のないことには無関心。舞踊で留学しているが、最近はモチョパットというジャワの定型の詩を吟ずることに没頭し、連日モチョパットの稽古に通い続ける。マミさんは、災害を沈めるためのモチョパットの歌詞を教わってきて、これをみんなと読み(歌い)たいと言う。妻とマミさんと3人で議論。
 「モチョパットをどうやって提示したらいいのだろう?」
という問いに、 
 「歌詞を読む。その言葉が重要なんです。だから、歌詞がちゃんと聞き取れることが大切。そして、そこに、それぞれの人が自然に参加してくること、それが重要。」
 「ということは、歌詞の意味が分からない日本の人にとって、災害を防ぐ効力を発揮できるのだろうか?ってことは、日本語も必要なんじゃないかなぁ。」
こうやって、話し合っていく中、ぼくらは、もっとパフォーマンスの中身に専念していかねば、ということになり、明日のテレビ出演をキャンセルし、その代わり、日本語でのモチョパットを作ることにした。情報があっという間に広がるインドネシアでは、広報はこれ以上しなくても人はもの凄い数が集まりそうな気配。とにかく、パフォーマンスの中身を充実させたい。
 「ってことで、今、?災害除けモチョパット ?ナシトゥンプン(みんなでご飯の山を食べる)厄除け儀式 ?メッセージを書く ?灯火 と4つ柱があるんだけど、ぼく、それ以外に、思いっきりアホなことしたいねん。日本の人たちに笑ってもらいたい。思いっきり気が晴れるようなアホなことしたいんです。そういうのジャワの人と一緒に考えたいな。」
 「例えば、みんなで志村けんの変なおじさんをやるとか、そういうやつですよね。ジャワの人、絶対、そういうの考えてくれるの好きやし、いいと思います。」
ということで、ジャワの人とアホなことを考えて、ほんまにしょうもないアホなことを、日本に発したい。災害除けの本気のお祈りから始まるシリアスな即興と、徹底的なアホなパフォーマンスの両翼を持って、日本のみんなにメッセージを発するんだ。どんどん気持ちが前向きになって、楽しくなってきた。ぼくらが楽しくなくっちゃ、日本のみんなを元気づけられないから、まず、ぼくらが前向きに楽しもうと思う。