野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

SANZUI

大阪にマルガサリのコンサートを聴きに行く。佐久間新の「SANZUI」という作品の初演と、伝統曲2曲のコンサート。水都2009の関連イベントでもあるらしい。

SANZUI」という作品は、佐久間さんの「振り子奏法」を応用したもの。振り子奏法は、もともとヒュー・ナンキヴェルとの「キーボード・コレオグラフィー・コレクション」から出てきたものである。ピアノから生まれたキーボード・コレオグラフィーは、ガムランに適応可能だろうか?

さて、ガムランの伝統曲でもそうなのだし、「桃太郎」の最後のシーン(第5場)や三輪眞弘の「2ビットガムラン」でもそうなのだが、演奏者のエゴとか人格とかそういうものが消失してしまって、ただ宇宙と一体になってしまうような演奏ができれば最高なのだろうと思う。多分、「桃太郎」の5年を通して、最後に辿り着いた第5場は、そういうシーンだと思う。

振り子奏法は、演奏の方法であるのだが、それは従来の演奏法ではないため、演奏者は、パフォーマーであることを過度に意識しやすい傾向が出てくる。すると、パフォーマンスをしようとする意識がどうしても芽生えてしまう。そして、演奏者たちは、お客さんを喜ばすことが大好きな関西人であり、観客は笑わしてもらうことに貪欲な関西人であるという状況で、それでも、一切のサービス精神をなしにして、無欲に宇宙と一体化する演奏をする。そこに辿り着くための修行として、「桃太郎」の第1場〜第4場はあったのだと思う。

「桃太郎」の場合は、第1〜第4場を経た後なので、色々な煩悩を捨てて、ただただ宇宙と一体化する演奏をするための心の準備は、観客にも出演者にもできている。また、照明の効果などもあって、集中しやすい環境で、上演してきた。この「SANZUI」はある意味、それに比べると、ハードルは高い。何の準備もなく、突然、宇宙と一体化する。それは、人が動き、音がなる。ただただ、それだけ。その難しさに、マルガサリは挑戦を始めたのだ。

このことは、次に「桃太郎」を上演する時、また、三輪作品を上演する時にも、大きく大きく影響してくる大きな第一歩になるだろう。