野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

The Sage Gasteshead

荷物をつめて、ヒューの家を後にする。ヒューと話し合って、ホエールトーン・オペラの第1幕、第3幕のスコアをぼくが作成、ヒューが2幕、4幕のスコアを作成することにした。1月までにスコアをお互いに完成させて、それからお互いに照らし合わせて、さらに改訂を加えて、そのスコアを使って、4月の全幕上演を行う。全幕上演を行って、スコアがさらに改訂される可能性もある。で、最終的には、どこかから出版助成などをもらって、完成スコアを出版したい。
そう思ってみると、第1幕の曲もいろんなスタイルだから、譜面顔もいろいろになるだろう。1曲目が、無調で図形楽譜、2曲目がポップス、3曲目が全音音階で阿波踊り風のリズム、4曲目はトーン・クラスターの合唱、5曲目はミニマル・ミュージック、6曲目はボサノヴァ、7曲目は電子音、8曲目が普通にきれいな合唱、9曲目が民謡テイストの曲、10曲目が打楽器アンサンブル、11曲目がしょうぎ作曲。オペラ全体が、色んな作曲のスタイル、記譜法が出てくる旅になればいいな、と思う。その辺を意識して、スコアを完成させていきたい。
さて、ヒューの家族とお別れ。スーツケースを持って、マンチェスター空港とは反対の方角、ニューカッスルへ行く。The Sage Gatesheadへ。電車で3時間。駅からホールに向かうタクシーの運転手によれば、8000万ポンドかかったと言ってたから、160億円かかったらしい。2000人規模のコンサートホール、小規模のホール、練習スタジオ、カフェ、レストラン、図書館など、充実したセンター。閉ざされたホールではなく、とことんオープンにすることを目指しているので、どの練習室も外光が入るし、通路から中が見えるようになっているし、催しのない日も通りがかった人がホールの中を覗いていいようになっているし、とにかく建築のコンセプトから、色んな人がホールに来て、出会い、交流する場として作られていて、その上、音響や搬入などの使いやすさも相当考えて作ったらしい。かなり魅力のあるセンターだ。
で、ここでのDirector of Learning and ParticipationであるKatherineに会った。キャサリンは、コミュニティ・ミュージック・ハンドブックの第6章でボイスについて執筆している人で、このできたばっかりのホールのコミュニティ・ミュージック部門のディレクター。以前より、ヒューから、ぼくの話を何度も聞いていた、来年はここで是非、ホエールトーン・オペラをやりたい、と言って、館内を全部案内してくれた上で、館内のレストランで食事をご馳走してくれた。これが美味しかった。キャサリンによると、このレストランまでこだわって、美味しいようにとか、色んな人がアクセスしやすいようにと、頑張ったのだそうだ。だから、自慢のレストランらしい。
イギリスのコミュニティ・ミュージックのシーンでヒューの果たした役割がいかに大きいかをキャサリンが語ってくれた。ぼくとヒューが出会ったことは、あり得ないような出会いだ、と喜んでくれた。また、ヒューがいかに鍵ハモを愛しているか、についても語ってくれた。どこでワークショップする時も、いつもヒューは鍵ハモを使っていると。共同作曲、鍵ハモ、という二つの共通点。ま、よく出会ったな、と思うけど、出会うべくして出会ったなぁ。キャサリンは、ものすごく乗り気なので、ここでの公演は実現するだろう。楽しみ。しかも、川があって橋があって、眺めもいいのよね、ここ。
それから、バーミンガム現代音楽グループのコンサート。1曲目はドナトーニのマリンババスクラリネットの小品。ま、こんなもんかな。2曲目は、カーゲルの有名な作品「マッチ」。二人のチェリストと打楽器奏者で、真ん中に審判としての打楽器奏者がいて、左右にテニスプレイヤーみたいにチェリストがいるシアター風な曲。ま、懐かしい感じの音楽でした。その後のJohn Woolrichのメゾソプラノヴィオラ、チェロ2、ハープ、ソプラノサックス2、バスクラリネット、打楽器の曲は、長いし退屈だし、音の無駄遣い。演奏者さん、お疲れさま。自分が曲を書く時は、もっと明確な曲を書こうと、他人のふりみて我がふりなおす。休憩の後、クセナキスジャンベ3重奏「Okho」が面白かった。なんだかんだ言って、やっぱりクセナキスは20世紀後半の最大の作曲家だなぁ。その前の駄作の後だからか、やっぱり書かれていることが無駄なようで無駄がない。結局、全部必要な音なのね。その後、リゲティが2000年に書いたメゾソプラノと打楽器4人の曲は、ま、そんなに面白くないけど、デザートとしては良かったかな。打楽器奏者全員がハーモニカだけをやる楽章があって、ふと「でみこの一生」みたい、と思った(歌手+ハーモニカ4/歌手+鍵盤ハーモニカ4)