野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

ヘンリー・カウエルの伝記を読んで

京都に戻る。電車の移動が多いのですが、電車の中では読書がはかどるので、電車の移動は嫌いではないのです。今回、かばんに入れた本に、ヘンリー・カウエルの伝記があって、アメリカ人のカウエルが、1926年にソ連にツアーした時の場面が、本当に面白く、非公式に音楽院の中で行われたレクチャー・コンサートで、同じ曲を何度もアンコールされて、当時、西側諸国からの楽譜が手に入らない中、学生たちが一生懸命耳コピーして譜面を書いていたり、臨場感溢れる数々のエピソードなのです。

ガーシュインに対位法を教えるエピソードも面白いのですが、もう一つ、印象的だったのが、ベルリン大学民族音楽録音アーカイブを聴きに行くために、助成金を得るのに苦労する話とかも、印象的でした。カウエルは野村同様、大学で音楽を学んでいない独学の作曲家なので、推薦状を23人もの人に書いてもらって、申請しているのです。その中には、音楽学者もいれば、バルトークチャベスやハーバのような作曲家もいて、やっとのことで、ベルリンまで行く調査費を得ることができるのです。民族音楽学者でもないのに、作曲家として、世界の民族音楽を聴いてみたい、それを自作の創作に役立てたい、新しい音楽理論を作りたい、として、録音を聴くために、これだけの労力を注ぎ込んでベルリンに渡ったことを思うと、こんな情報の恵まれている時代に生きているぼくは、もっと勉強しないとなぁ、と思うばかりです。カウエルには、本当に励まされる思いがします。

京都に戻り、週末の音楽学会のためのレジュメを作成。そして、「かずえつこと 即興のための50のエテュード」no.20「奇数と偶数」を作曲。取りあえず、毎日1曲、50日で50曲を書くと宣言して、チラシの文章にも書いてしまったのですが、20日で20曲まではやれました。あと1ヶ月、ネタがなくなって困るのか、新たな境地に達することができるのか、楽しみであります。