野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

愛知大学にて

豊橋愛知大学まで授業に行く。文学部のメディア芸術専攻のコース。准教授でワークショップ・コーディネーターの吉野さつきさんに招かれて。舞台映像家の山田晋平さんが助教をしており、20名弱の2回生の学生達がいる。本日の授業では、一方的に教える授業をしないために、先生はどうしたら良いのだろう?、と学生達に尋ねました。「机や椅子をなくせば距離が近づく」と言うので、机と椅子を取り去りました。どんな授業をするかについて、吉野先生と打ち合わせをしたけれど、学生のみんなとも打ち合わせをしたい、「今日、ぼくと何がしたい?」と尋ねました。全部、ぼくが道筋を作って、それに従って導いたっていいのですが、もう前期に様々なアーティストによるワークショップを体験した学生達ですから、ゼロから一緒に考えようと思ったわけです。

「手拍子をしてリズムをずらす」という案が出たので、それをやってみました。この時点では、それほど面白いアイディアには思えませんが、みんなやってみたわけです。「やってみてどうだった?」と尋ねると、手拍子だけでなく、「この部屋の色々なもので音を出し、色々な場所にバラバラになって、電気が消えたら音をやめる」という案に発展しました。学生の提案をそのまま採用しやってみると、より開放的な即興演奏になりました。また、「やってみてどうだった?」と尋ねると、音を出すのもいいが、その代わりに、「声を出してみたい」と提案があり、終わりの合図はまた電気を消すのか?と問うと、「ヨー」という掛け声に手拍子で「ぽん」とやることになりました。こうして、「手拍子」→「(部屋の各所にちらばって)音を出す」→「(電気が消えると)声→ヨーぽん」という3つの場面のある流れができ、これを通してやってみました。10分の作品です。「声」の場面は、最初は言葉ではなく声だったのですが、自然発生的に「言葉を喋る」場面になりました。また、「やってみてどうだった?」と尋ねました。「言葉を喋るのは、音楽のようだ」とコメントがありました。「喋る+楽器」もやってみたい、歌もやってみたい、噛み合わない会話みたいなのもやってみたい、と提案が出ました。ここまでで90分。

休憩をはさみ、言葉を喋るのが音楽のようだ、というコメントが出てきたので、「千住だじゃれ音楽祭」で発表した野村誠作曲(三浦正宏映像)ヴァイオリンと映像のための「だじゃれは言いません」を見てもらいました。

それから要素を書き出し、構成を決めました。

1 歌
2 (外国語、サムライ言葉、変な言葉などを)喋る
3 (ヨーぽん)手拍子
4 音を出す
5 (電気が消えて)喋る
6 (電気がついて)一人が「手を合わせて下さい」、全員で「ごちそうさまでした」

という構造になりました。どうして、「手を合わせて下さい」なのか、「ごちそうさま」なのかは分かりません。そして、これを通して演じてもらいました。これが自由度は高いのですが、声もあり、歌もあり、音もあり、楽器もあり、喋りもある、何というか音楽と演劇とダンスのどれもが混在する「門限ズ」のような作品なのです。もっと、身体の動きがあってもいいのかもしれません。

通した後に、タイトルを考えました。単なる手拍子から発展した作品は、同じ構造を保ちつつ「大正25年」(大正は15年までしかないのに!)と「Youとおいらとワシ〜そして少しの哀愁〜」(だったかな)というタイトルの2作品になりました。

0 ひーふーみーよ
1 童謡を銘々に歌う
2 (大正時代の人のように)喋る
3 (ヨーぽん)手拍子
4 音を出す
5 (電気が消えて)大正時代について現代の視点で喋る
6 (電気がついて)一人が「板垣死すとも」、全員で「自由は死せず」

0 チャイム
1 哀愁漂う歌を銘々に歌う
2 (高校生になりきって自己紹介を)喋る
3 (ヨーぽん)手拍子
4 音を出す
5 (電気が消えて)高校時代を振り返って喋る
6 (電気がついて)一人が「あの頃はよかった」、全員で「本当によかった」

となりました。こういう単発の特別講義の際は、結構、コンパクトに情報を圧縮した講義やワークショップをすることが普通ですが、今日2コマ、2週間後にも2コマで、合計4コマを任せていただいているので、思い切って、ぼくがプログラムを提供するのではなくて、学生達が考えたアイディアを膨らませていきました。とにかく、学生達がやりたいことを見せてもらい、ぼくはそれを実現するサポート役をしました。その結果、面白い作品が生まれてきたのは、嬉しかったです。ちなみに、大学生達は、高校時代のことを語ることは得意でも、大正時代について語ることは難しいようです。次回の授業では、大正時代について調べてきて、そのことについてディスカッションし、さらに作品を発展させ、あっと驚くものに到達したいと思っております。愛知大学のメディア専攻のコースが、面白い発信をしていくのも、遠くないと思います。