野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

《一人芝居〈コントラバス〉のためのコントラバス四重奏曲》/JACSHAと KIAC

《一人芝居〈コントラバス〉のためのコントラバス四重奏曲》の作曲を再開。戯曲の冒頭でブラームス交響曲第2番のレコードをかける。だから、ぼくの曲の中にもブラームスコントラバス交響曲第2番のコントラバスパートだけが登場する。原曲のバス以外は無視して、そこに肉づけしていく。本当は主役じゃないバスパートを主役にして、そこにフォーカスを当てる。だから、一日中、コントラバスのパートだけをいじっていた。コントラバスのパートだけの音源ってあるかとYouTubeで検索すると、そういう動画があった。オーケストラで聴くと古典的な曲なのに、バスだけ聴くと抽象化されて前衛的にも聞こえて面白い。

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JACSHA(日本相撲聞芸術作曲家協議会)とKIAC(城崎国際アートセンター)の打ち合わせ。3年間のコミュニティプログラムのアーカイブサイトのデザインについて。デザイナーの方が色々工夫された点、3つの団体をどう効果的に見せプロジェクトの趣旨を初見の人に効果的に伝えるか、色々考えるポイントがあり、良い意見交換ができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

田原坂ラッパ/相撲の力学

里村真理さんと熊本市北区の植木をリサーチ。熊本市現代美術館で行う問題行動トリオのプロジェクトの準備として。西南戦争の主戦場の一つであった田原坂にある資料館も訪れた。

 

kumamoto-guide.jp

 

西南戦争で使われた喇叭と、当時の各隊ごとのラッパの楽曲を自衛隊のトランペット奏者が吹いて再現した録音があって、どれも似ているので、こんなのが鳴り響いて、敵と味方を区別できるのだろうか、と思った。戦争の時、この地のあちこちでトランペットで似た曲が鳴り響いたヘテロフォニーを空想した。

https://x.com/kengungsvc_wa/status/1300630430807281665

 

植木の山と谷の地形や鳥の鳴き声などを味わい、温泉も堪能し、その後もカフェで企画案を練る。面白くなりそう。

 

相撲探求家で元力士の一ノ矢さん(松田哲博さん)の著書『相撲の力学』読了。相撲について物理学で解析するところと、科学では解明できていない相撲の妙技を物理的な発想を比喩的に使って解釈するところがあり、どちらも現時点での一ノ矢さんの最先端の相撲の理解で、非常に面白く読んだ。常にアップデイトされていく一ノ矢さんなので、数年経つと、一ノ矢理論はさらに新しくなっているだろう、と思う。名著で、特に、双葉山太刀山常陸山梅ヶ谷など明治〜昭和初期にかけての力士の身体論になっているところが面白く、現代の相撲が失いかけている技法を詳細に解説している。

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マイアミとの新プロジェクト/世界のしょうない@豊南市場

マイアミ(吉野正哲)くんと新しいプロジェクトを考えるミーティング。既にマイアミくんが書いてきたミーティングのためのメモ(A4で10ページ)が、アイディアの権利と葬儀と裁判と保育をめぐるテキスト。詩でありラップであり戯曲であり、これを原作にして舞台を作れるのじゃないか、と思う。先日、里村真理さんと野村で試しに音読してみたら、文字で読むより声にすると膨らむテキストだったので、今日は彼に音読してもらう。ここを起点に作ることができそうで、このテキストをリライトしたり、アレンジしたり、膨らませたりして、バージョンアップをしていくと、15分のテキストは2時間の舞台になるかもしれない。

 

豊中市庄内の豊南市場にて、ヴィオラの森亜紀子さんとミニコンサート+ワークショップ。大阪音大の井口淳子先生が、こういう場もあるよと教えていただいたが、市場の中にライオンズクラブが寄贈したグランドピアノがあり、ストリートピアノになったりコンサート会場になったりする。オープンな場だけど、集中もできる空間。

 

野村誠《鍵盤ハーモニカ・イントロダクション》で自己紹介の後、ヴィオラと森さんの紹介ののち、宮城道雄の《春の海》少々の後、今回、ヴィオラ+ピアノにアレンジした《江州音頭》。ヴィオラの音色を満喫。

 

その後は、江州音頭の合いの手「よいとよいやまか、どっこいさのせー」を皆さんと練習し、ヴィオラとピアノの演奏に合わせて、合いの手を入れてもらうと、自然に手拍子が起こる。手拍子の代わりに観客の皆さんに楽器を配り鳴らしてもらう。これで、観客参加型の《江州音頭》ができあがり。

 

その後、オリジナルの《しょうない音頭》にすべく、オリジナルの合いの手を作る。「ショコラ、ほうなん、さくらがくえん」という合いの手ができて、みんなで言う。楽器をハンドベルを鳴らす場面と、それ以外の打楽器を鳴らす場面に分けてみる。ハンドベルを鳴らす場面のメロディーを考えようと、一人ずつが選んだ音を教えてもらうと、レ、ミ♭、シ♭、ドの4音になり、これを奏でると、森さんが「坂本龍一みたい」というので、坂本龍一風にピアノ伴奏をする。

 

10年前に日本センチュリー交響楽団とワークショップを始めた初期の頃、初めて作ったメロディーを奏でると、森さんが「ジャズみたい。ジャズみたいにしたらカッコいい」的なことを仰って、その発言によって、《日本センチュリー交響楽団のテーマ》の作曲の方向性が決まった。

 

最後、全員でオリジナル《しょうない音頭》を奏でて終了。参加者の方には、この場の運営に関わっておられる絵本の読み聞かせをされる方、ハーモニカアンサンブルをされている方、リコーダーを吹きながらけん玉をされる方、美声の小学3年生など、新たな出会いが多く、以前のワークショップにおられた方との再会も嬉しく、よい空気感だった。

 

世界のしょうない音楽祭2024 豊中市

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きたまり小町風伝/マイアミ

京都の大江能楽堂にて、きたまりダンス公演『小町風伝』を鑑賞。夢なのか現なのか、フィクションなのかリアルなのか。その境界を蠢くソロダンスと多数の音楽家による公演。2022年に解体された慣れ親しんだ家を懐かしむ『棲家』を上演した直後に、きたまり自身が札幌に移住してしまった彼女が小野小町として回想するダンスは、自身の人生を回想し、彼女のダンス史が織り込まれているようでもあった。

 

『小町風伝』は、『棲家』と似ている。老人が過去を回想するという構造はそっくりで、台詞が言葉からダンスに翻訳された時点で、物語はより抽象化されるので、二作品の類似性が強調されて、そこも面白かった。

 

尺八、三線、歌、馬頭琴、太棹の演奏家たちが、様々なテクスチュアの音を響かせていて、次々に豊かな音楽が聴けて贅沢な音楽に対峙する孤高のソロダンス2時間を目一杯堪能した。

 

途中で、太田省吾の戯曲の言葉が、娘に説教する言葉が、スピーカーから流れてくる。謙虚でいいのか、みたいなことをスピーカーは言った。うむ、謙虚もいいが、謙虚じゃないのもいい。ぼくは、ふと『棲家』の通し稽古のことを思い出す。ダンスの由良部正美さんとぼくに対して、いい人すぎる、どうして、そんなに私のやりたいことを汲み取ろうとし過ぎるのか?ときたまりが言った。とても良い言葉だ。

 

スピーカーから流れる太田省吾の書いたであろう台詞が、彼女自身の言葉のようにも感じ、彼女自身も含めた色々なところに向けられているとも感じた。色々な声が聞けてしまうきたまり。いい人の鎧を脱ぎ、ダンスシーンや周囲の願いを汲み取ることを卒業する。周囲が多彩に何を奏でようと、自身のダンスの道を進んでいくのだ。

 

ぼく自身、自分の演奏の強度をしっかり磨いていき、彼女のダンスとぶつかり合う日を楽しみにしたい、と思った。

 

夜は、マイアミくんとの新プロジェクトのミーティング。美味しくご飯を食べて、温泉に入って暖まり、夜ふかしせずに早く寝た。続きは明朝。

 

 

 

第161回だじゃれ音楽研究会

本日は、第161回だじゃれ音楽研究会(だじゃ研)@東京藝術大学千住キャンパス。12月22日に開催する『だじゃれ音楽オープンキャンパス』(@東京藝術大学千住キャンパス)に向けて。

 

進化する「だじゃ研」。この夏に、だじゃ研は野村が参加できない本番があった。昨年、一昨年と野村が参加した「表現街」も今年は参加できず(だじゃ研のメンバーは有志で色々関わったのかな?)。そうした夏の様々なイベントを経たからなのか、今日のだじゃ研の演奏は、次なるフェーズに達していると感じさせるものだった。毎回メンバーも入れ替わるし、何が上達しているのか分からないが、でも何かが違っている。

 

《ぼろぼろボレロ》(ラヴェル作曲/だじゃ研編曲)

《Rock Sing》(Memet Chairul Slamet作曲)

《よし・だ・たけし》

《ほうれんそう・れんそう》(三木悠平作曲/石橋鼓太郎作詞、だったかな?)

 

といった4曲。ボレロをやったのは、足立区で活動する「狂言まいまい倶楽部」指導者の山下芳子さんが見学に来られたから。2週間後(11月16日)には、「狂言ボレロ」を上演するそうだ。

www.galaxcity.jp

 

だじゃ研のボレロは、リコーダー、ケンハモ、フルート、ピアノ、貝、パンデイロ、ギター、ウクレレ、声などで奏でた。貝のリズムがとても効果的で、面白く、12月22日には、これに狂言が加わる。

 

ボレロと言えば、今年の2月に初演した《はじまりはマルチニーク》の後半は、ボレロがカリブの音楽になっていく(以下の動画の26分あたりから)。ボレロは『キタ!千住の1010人』でも鍵を握ることになるだろう。

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だじゃ研も進化していくので、来年1010人でどんな音楽をしたいかについて、構想も変化していき、まだまだ考え中。

キャンパス梯子、東京藝術大学from千住to上野

東京藝術大学の音まち事務局にて打ち合わせ。来年度開催の『キタ!千住の1010人』という大イベントまで1年切った。そこに向けて、色々やっていく。とりあえず、来月二つもイベントがある。12月1日に舎人公園で開催のメモリバは、ピアノで出演。そして、12月22日に東京藝術大学千住キャンパスで開催の『だじゃれ音楽オープンキャンパス』は、足立区の地域の団体との交流を経て、少しずつ『キタ!千住の1010人』の核を作っていく。会場となる芸大第七ホールの下見もした。

ga.geidai.ac.jp

 

夜は、東京藝術大学上野キャンパスにて、ガムランクラブTitik Suaraを訪ねる。来年の『キタ!千住の1010人』に向けての協力していただける団体を探すリサーチとして。楽理科の学生が多く、留学生も多い。こちらもよい交流をしたし、民族音楽学植村幸生先生とも久しぶりにお会いする(おそらく前回お会いしたのはジョグジャで13年前だが、さいたまトリエンナーレ2016で植村さんの学生が相撲のリサーチをして、ワークショップを受講しに来たこともあって、その時に植村さんとメールでやりとりした)。

 

野村誠作曲の《Away from Home with Eggsたまごをもって家出する》が好きだ、と言ってくれる学生もいて、2000年に作曲し2000年に録音された音源を2005年生まれの人が聴いている。

 

ちなみに、2000年の向井山朋子さんによる演奏。

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2020年のホワイト佐藤信子さんによる演奏。

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2021年の西村彰洋さんによる演奏。

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2000年に《たまごをもって家出する》を聴いて本当に気に入ってくれた作曲家の三輪真弘さん(水牛のように2002/7)は、その後、色々な機会をぼくに与えてくれて、昨年は三輪さんプロデュースの公演でガムラン作品《タリック・タンバン》をサントリーホールで初演して、その曲の最後のフレーズをTitik Suaraの人に音を出してもらっていると、色々なことがグルグルと回って戻ってきて、びっくりする。

 

《タリック・タンバン》の長文プログラムノート

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色々良い交流の時間だった。

 

Peter J. Schmelz著『Alfred Schnittke's Concerto Gross no.1』(Oxford University Press)読了。学生の頃、シュニトケの音楽はよく聴いた。バロックと現代音楽とポップな音楽が混在するスタイルでありながら、他のポストモダンの作曲家に比べて圧倒的に力強く説得力があると感じていたが、現在聴いても説得力のある音楽だと思う。

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田んぼの里の映像/90年代〜00年代のアーカイブについて

佐久間新さんのダンスと野村誠の音楽で、2021年に撮影した映像作品の整音作業。

 

撮影/編集 草本利枝

撮影アシスタント 岡本晃明、里村真理

コーディネート 里村真理

 

Premiereという映像ソフトの使い方を知らないが、とりあえず音圧の調整とイコライジングを、草本さんと一緒に進めて、とても勉強になった。EQである周波数帯域を強調するとカエルの声が聞こえてきたり、低音の周波数帯をカットすると車の低音が気にならなくなったり、それを不自然になるすぎないギリギリのどの程度で済ませるかが、結構難しいが面白かった。

 

夜は岡本さんと3人で夕食を食べながら、色々語り合う。アナログで記録されたもの以上に、1990年代〜2010年くらいの20年間の現在と違うフォーマットで記録されたデジタルの記録が、再生機器の消滅と同時に、残らないのでは、という話題。自分達が20〜30代の頃の活動をアーカイブするなど、優先準備の上位にあがらないが、フロッピーディスクに保存された原稿、miniDVテープに記録された映像など、変換するなら今のうちだ、という。実は2010年にVHSで持っていた映像データはDVDに変換した。でも、DATの音源、miniDVのデータは、面倒なので、変換していない。未来の研究者が見たいと思った時には、手遅れなのかもしれないけど、やる時間ない。誰かバイト代払うからやって欲しいなぁ。