野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

夜@家のスタジオ

 夜、スボウォさんが訪ねてくる。電話とかなく、突然やって来るのは、携帯のない時代からの風習が残っているのだろうと思う。かばんにはペナ(インドの弦楽器)が入っている。予想以上に小さなかわいい楽器で、音も柔らかく小さい。ペナと鍵ハモでセッションをしてみると、鍵ハモの音が大きすぎる。リードが鳴るか鳴らないかのギリギリの音量で丁度よい。かなり微妙なところで演奏。演奏しているうちに、唾液ぬきレバーを押しながら演奏すれば、音量がかすれるくらいで、丁度よい音量になることを発見し、それで応じる。ペナは、弓に金属の鈴がたくさんついていて、弓で弦を擦りながら、同時に鈴を鳴らして演奏する。スボウォさんは、習ったわけではないのに、自己流で演奏をしていて、それは、知らない国の民謡を聴いているかのようでもある。
 セッション2は、弓を使わずに、指で弾いて演奏。ぼくもほっぺを叩いて共演。また、ルバブ(ジャワの弦楽器)の弓を使って演奏。たまたま妻を訪ねていたヒカリさんが弓の鈴で共演したり、間もなく帰国する同居人のエリナさんも自然に身体が動き踊り出す。ぼくは、チブロン(ジャワの太鼓)を弱音で演奏する。妻もテーブルの上のお菓子やコップなどでリズムをとる。スボウォさんの演奏への集中力はすごく、意識は銀河の外まで飛んでいってしまっているかのように、音と一体化している。
 セッション3は、鍵ハモとペナで始める。妻は、遠慮気味に太鼓を叩き始めるが次第にテンションが高まっていく。ぼくは、グンデル(ガムランの筒状の管を持つヴィブラフォン的な鉄琴)をリズミカルに叩きながらトランス。ヒカリさんは、この空気を椅子に座って味わう。動きたくてウズウズしているエリナさんの身体は、もはや止まっていることができない。部屋全体を喜びの楽器として奏でるべく動き回る。そうした音楽をさらに遠くへ導くべく、スボウォさんの演奏はテンションを高めていく。
 スボウォさんと即興セッションをしたのは、本当に久しぶり、2007年の秋のオーストリア以来だ。彼の作曲した作品を映像などでは見てきたが、やはり本人の生演奏に触れるのは貴重。この人は、まさしく音楽そのものだ。 
 演奏の集中の後は、タバコを吸いながらリラックスするスボウォさん。マレーシアには音楽家の友人がいっぱいいるので、紹介してくれると言うし、ジョグジャで、ガムランをカリキュラムに取り入れている高校で、創作もやっている高校の先生を紹介してくれ、ジャワ人特有の照れ臭そうな満面の笑みで握手を交わすと、ペナの入ったカバンをバイクにひっかけ、帰って行った。