野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

好きな音、うざい音

神戸で旧乾邸で行われた「音の城」を聴きに行って来ました。

感想文です。

最初のトーンチャイムの始まりは、美しかった。チャンスと思って、演奏している輪の中央に入り込んで、寝転がって目をつぶって聴きました。すごい、いい感じだった。

その後は、色んな部屋で同時多発で演奏があったのですが、聴けば聴くほど、「音楽療法ってうざい」と思ってしまいました。出演者のうち、どの人が音楽療法士かは分からないのですが、あちこちの部屋で、相手の表現を大袈裟にして反応し返す表現を聴いて、いい加減にしてくれえっ!って思ったのでした。「私はあなたの音を聴いていますよ!」という自己主張の音です。例えば、「ふぅー」と息をした人がいたとします。すると、ちょっと遅れて、わざとらしく「ふぅー」と返すのですが、それ以上は発展しません。そうしたとき、最初の「ふぅー」は、自然にその場に存在していた音ですが、後から付け足された「ふぅー」は蛇足のように聞こえるのです。そして、かなり多くの部屋で、この「私はあなたの音を聴いています」という「反応ビーム」を体験して、ぼくは「うざいなぁ」と思ってしまいました。

それぞれの部屋での演奏の緊張感があまりないので、誰が観客で誰がパフォーマーかも判別つかないし、あちこちの部屋におもちゃのピアノとか、木琴とか、パーカッションなどが置いてあるので、これは、観客も参加してもいいのかも、と思い、途中で会った作曲家の坂野さんに「これって、観客も演奏していいんでしょうかね?」と質問したところ、「さっき演奏したら注意されちゃいました」とのこと。やっちゃダメなのかぁ。

で、気を取り直して、自分の気に入る演奏をしている部屋を探そうと思って回ると、いくつかの良い場面にも出会いました。
シンセサイザーのスイッチを絶妙なタイミングでON、OFFした後、自分で音を出しているのに耳を手で押さえる名演奏家(子ども)がいました。この人の演奏は、ぼくにとって面白いものでした。どうして、耳を押さえるのだろうと、ぼくも真似して耳を押さえて聞いてみたりしました。このシンセの達人と、ゲストミュージシャンの千野秀一さんのデュオなど聴いてみたいな、と思いましたが、そういうチャンスは訪れません。

あと、2階の一番奥の部屋で、ピアノでバッハなどの曲を弾く男性の演奏と、その合間に絶妙のタイミングで「どっこいしょ」と言っている場面は居心地のいいような悪いような美しい場所でした。そこで演じているパフォーマーのお二人も居心地がいいような悪いような気分だったのかな、と思います。たまたま、そこに鍵盤ハーモニカがあって、運良くその部屋にはケアスタッフのような人がいなかったので、ぼくはひっそり静かに鍵盤ハーモニカをちょこっとだけ吹きました。他の部屋で鳴らされている音が、なんだか乱暴だったり、雑すぎたり、大雑把な気がして、ここで少し吹けて良かった。

プログラムには、「耳をすまして探検してください」ということが書いてあったけど、耳をすまさなくても、あっちこっちで音が鳴っていて、耳が疲れてくる。そうだ、探検すればいいんだ、と、窓から中庭に出たり、あっちこっちの窓を開けて、中庭で色んな部屋の音が聞こえるように自分なりのミキシングを楽しんだり、積極的な聴取を試みてみたり。そんな時、カマキリに「がんばれー」と応援している子どもと仲良くなったりできて、これは嬉しい一コマ。

縁側で千野さんと女の子が、木琴を微かに演奏している。ぼくは近くまで寄って、二人の会話が聞こえる距離で静かに聴いた。その微かなニュアンスがきれいだった。

畳の部屋で絵を描いている子どもがいた。ところが、近づいてみると、歌を歌っている。その歌がすごく良いけど、かなり近づかないと聞こえない音楽だ。

それと、終わりが近くなったら、無理矢理盛り上げようとするやかましい演奏に嫌悪感を覚えて、ぼくは中庭に避難していたのですが、ちょっと音がまとまってきたので、窓から室内を覗き込むと、さっきのカマキリの男の子が、ぼくに向かってシンバルや太鼓を演奏してくれた。ほとんどの観客が室内にいるのに、ぼくの方に向かって演奏してくれるので、ぼくは嬉しくなって、ちょっと踊ってしまった。これは、また良い瞬間。

でも、それから、また、その男の子は誰かに楽器を取り上げられて、良い瞬間も長くは続かず。でも、最後の方で、石村さんのピアノ+三宅さんのクラリネットを中心にする美しい音があって、それはいいな、って感じて、ついに室内に戻りました。ここは、本当に美しかった(でも、長くは続かなかった)。

確かに面白いところもいっぱいあったけど、これは入場料をとって見せれるものなのかなぁ、と思ってしまいました。なんだか、普段入れない学校の自由時間、みんなが遊んでいるところを見学させてもらった覗き見の面白さに近い気がしちゃった。厳選されたメンバーの組み合わせで、厳選されたプログラムをステージでやっって欲しい、と一観客としては、思います。シンセの男の子と千野さんのデュオとか、シンセの男の子をリーダーにしたシンセサイザー10台くらいのユニット作っちゃうとか。

あと、ぼくの友人でもある片岡祐介さん、石村真紀さんの持ち味が全然出ていなくって、二人の音もかなりうざったく聞こえる瞬間が多かったのは残念でした。どちらも、本当にいい音を出したことを、ぼくは実体験として知っているだけに、どうしてなのかなぁ、と思ってしまいました。もっと、自然に音を味わえばいいのに、音を味わう余裕がないように思ったのです。出演者であることの強迫観念みたいなものから、耳を閉ざしているかのような。または、敢えて耳を閉ざして、音を出す役割を演じているような。

そんな中、ビデオを撮影している人や観客の中で、自然に振る舞っている人の方が、その場に馴染んでいるようで、印象に残りました。

とにかく、明日は、今日よりも自然に音がその場に解き放たれることを祈っています。