野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

瀬戸内国際芸術祭2022 高見島プロジェクト

瀬戸内国際芸術祭の高見島を見に行った。昨年、びわ湖・アーティスツ・みんぐるの『ガチャ・コン音楽祭』で、プロジェクトメンバーの「ぐるぐる」の講座の1回目のワークショップのゲストでお招きしたのが藤野裕美子さんで、ぼくは聞き手を務めたが、その時に高見島での展示のお話と展示風景の画像を見せていただき、それだけでも十分面白かったのだが、できれば現地で体験してみたいと思っていた。開催期間が11月6日までなので、東京から熊本に帰る道中に行ってみた。

 

丸亀の次の駅、多度津から芸術祭の無料シャトルバスが多度津港まであり便利。取手アートプロジェクト2006に参加していたアーティストの三好隆子さんは、今は長谷川隆子と改名して活動しておられるが、この辺に住んでいるな、と思いながら、今回は会えないなと思いながら、彼女のウェブサイトを見る。

 

www.hasegawatakako.net

 

切り絵作家と名乗っているが、大きな作品やパフォーマンスなど、色々ありそう。かがわ山なみ芸術祭に出展しているようでだが、遠くて寄れそうにない。そう言えば、彼女も京都精華大出身で、藤野さんも精華大出身だけど、時期が違いそうだから重なってないだろうなぁと思う。船で瀬戸内を渡る。船で島を行き来すると、なぜか香港を思い出す。来年あたりは香港に行きたい。高見島は、海の中にお山が浮かんでいるような島、あるいはお山が海水浴してしまったような島だった。

 

2ヶ月の展覧会の途中の日曜日なので、藤野さんはいないだろうと思って連絡したら、この週末は泊まり込みで滞在しているらしく、お仕事の合間を縫って、案内して下さった。高見島での展示は、概ね、各アーティストが1軒ずつ空き家を会場にして作品を発表していた。空き家を展示できる状態まで掃除するだけでも大変そうだが、展示場所で設営/制作できるメリットも大きそうで、その会場ならではの作品が数多くあった。

 

setouchi-artfest.jp

 

藤野さんの作品は、昨年の滋賀県立美術館で拝見した作品も本当に素晴らしかったのだが、島の風景を見て路地を歩いてきた後に、空き家の空間の中で見る体験は圧巻だった。襖とか屏風のような日本画が本来持っていたあり様を考えて、現在のスタイルに至ったと昨年のトークでおっしゃっておられた。確かに、壁に設置される絵画ではなく建具としての絵画のインスタレーションであるのだが、屏風や襖ではあり得ない大きさで、しかも、描かれているものの大きさも実物よりも断然大きく描かれているものが多い。そして、それらが西洋的な遠近法ではなく、並列に多層的に描かれている。大きく描かれていると言っても、全てが同じ縮尺で拡大されているわけでもないので、見ていると、小人になって、すごく近くで見ている感覚にもなれば、子どもくらいになって、少しだけ離れている感覚にもなる。要するに、距離感もスケール感も定まらないので、ピントを合わせるために振り子が振れるように、鑑賞者は絵と絵の間の位置で揺れ続けているような感覚に陥るのだ。斜めの急な階段を上った屋根裏部屋には、階段と平行な斜めの絵画が遠景、近景とある。屋根裏の中央を駆け巡る太い梁に対称になるような逆向きの斜めの平行四辺形の絵画もある。どこから見ても柱や絵に隠れてしまう部分があるので、全ての絵を同時に見ることはできない。鑑賞者が見る場所によって見えてくる風景がある。絵の中に没入して見るのもいいし、天井の穴や汚れなども含めた建物全体とともに味わってもいい。タイトルは《過日の同居2022》。色々な意味で同居していて、今日、一瞬だけどここで同居できて嬉しい。

 

yumikofujino.web.fc2.com

 

中島伽耶子さんの家に光の通る穴があいた作品《うつりかわりの家》は、入った瞬間、家が星空になったようで、決して大きくない家の中で無限の広がりを感じる。村田のぞみさんのステンレスの針金が枝のような雲のような粒子のような作品《まなうらの景色2022》は、すごく大きな作品だけれども、その細部に目がいく。物そのものも美しいが光や影や気配が美しく、決して明るくない光が少し当たったり当たらなかったりする小さな欠片の味わいを感じていたくなる。山下茜里さんの赤を基調とした画面に目や顔がいっぱいある敷物や壁面などに増殖する目《Re:mind》を見ていくと、(作品ではない)壁板の節までもがこちらを見つめているような気分になる。鈴木健太郎さんの《かたちづくられるもの》は、障子も天井も床の間までも青くなった青焼きの世界で、この島にかつて多く住んでいた家の屋号を尋ねて集め、作家の生まれる遥か昔の島の感触を思い出そうとしていた。などなど、印象的な作品が数々あり、3時間の島に滞在の時間で頑張ってほぼ全部の作品を見て回った。空き家の魅力を活かしながら、それぞれの作家が個性を発揮しているので、作品を思い出すと自然に家を思い出す。そんな展覧会だった。

 

図録によると、京都精華大学出身のアーティストがたくさん出展しているようで、TAKAMIJIMA INSIDE GALLERYというギャラリーも、出展作家たちにより開始されていて、途中で藤野さんはギャラリーの店番に戻っていかれた(ギャラリーも行ってみようと思ったけど、前を通った時は既に閉店してた)。

 

日没直後の瀬戸内海に浮かぶお山のような島をあとに熊本まで帰る。素敵な作品に触れてリフレッシュされたので、明日からいい感じで仕事に戻れそう。