野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

『切腹ピストルズ』さん《つかれた貝?》とやり、一緒に《だ切しょん》した

本日は、『隅田川道中』というイベントにゲスト出演をした。2014年にぼくが『千住の1010人』を開催した時に、音まちのディレクターとして運営の統括をしてくれた清宮陵一さんは、その後、ご自身のNPOトッピングイーストを始められて、様々な企画を行っている。

 

www.toppingeast.com

 

今回は、トッピングイーストの主催で、『切腹ピストルズ』という和楽器集団が隅田川を演奏しながら2日間歩き続ける企画で、歩行距離が23.5kmという修行のような大変そうな企画。その道中で、様々な出会いがあり、その中の一つとして、野村誠千住だじゃれ音楽祭にコラボの打診があり、準備を進めてきた。

 

コラボと言うが、和太鼓の大音量とセッションと言っても、音量が違うので、近くに来たら我々の音は完全にかき消されてしまうだろう。そこで、切腹の中でも比較的音量の小さい楽器(三味線など)とセッションするといいのではないか?6時間も歩いてきたら、テンションがあがって元気になっているかもしれないが、セッションする体力も気力もないかもしれないので、休憩してもらうための安らぎの音楽を演奏して歓迎するのがいいのではないか、など、夏頃から話し合いを進めてきた。その上で、切腹ピストルズの隊長さんと事前に打ち合わせを持ち、どのような方向性で進めるのがいいかを相談したい、という要望を出していた。

 

ところが、何かメッセージがうまく伝わらないのか、事前の打ち合わせは無理と断りの返答がくる。お忙しい方々で打ち合わせができないのであれば仕方がないし、6時間歩いた後がどのような状況なのかは、歩いた後でないと想像もつかないだろうし、しかし、我々としては、ある程度は柔軟に対応するにしても、準備のために打ち合わせをしたかった。しかし、なぜか叶わないので、以下の形式ならば何とかなるのではないか、と提案した。

 

1 演奏しながら切腹ピストルズを待ち受ける

2 切腹ピストルズが15分休憩している間に、脱力できる演奏で歓待する

3 切腹のメンバーとのセッションを5分ほどとる

 

という3部構成で進む予定で臨んだ。3のセッションは、セッションしたい人がいなければやらないオプションとして提案した。そして、今日の本番。

 

1の待ち受ける演奏で、遠くから聞こえる切腹の大音量と我々の小音量がいいバランスで混ざり合う瞬間から、徐々に近づく大音量にマスキングされ、最後には音は聴こえないので、貝殻を擦る仕草を切腹に見せたりするなど、視覚的に歓迎。

 

続いて、2の歓待の演奏に入ろうとして、「せっ」、「ぷく」、「ピストルズ」、「すみだ」、「だじゃれ」などの声によるアンサンブルを始めたところ、伝言ゲームが間違って伝わっているのか、切腹さんたちは、その場からどこかに移動して退散してしまった。この後、昆布の演奏、貝の演奏、楽器の演奏など、彼らが休憩している間に聴かせる予定で準備していた演奏ができない。

 

呆然としていると、音まちのディレクターの吉田さんから、「野村さん、切腹のリーダーとセッションの打ち合わせをされますか?」と尋ねられ、打ち合わせをしたい意向を伝える。まもなく、清宮さんと吉田さんが相談し、吉田さんから「本日はこれで終わりにしたいそうです」との連絡がくる。ちょっと待って!

 

20人以上のだじゃ研のメンバーたちと、数ヶ月前から毎月ミーティングで準備してきて、突然、今日は終わりと言われても、その場で了解するわけにはいかない。江戸の精神を重んじる切腹ピストルズさんに思いを届けるべく、咄嗟にぼくはサムライになっていた。とりあえず、切腹さんはこの場にいないので、立ち去りそうな清宮さんが唯一の窓口なので、ぼくは叫び訴える。準備した歓待の演奏も聴かないとは何事だ!セッションに応じないとは如何なることか!こちらの切実さを伝えるために必死のパフォーマンス。6時間歩いてしんどいのは理解できる。しかし、約束を守ってほしい。わざわざ熊本から東京まで、このために来た。演奏の機会を奪われて、何のために準備してきたのか、わからない。先月のだじゃ研のリハーサルにも、トッピングイーストのインターンの方も来られて、かなり状況も説明した。伝言の伝言の伝言の中で、どんな誤解やすれ違いがあったか想像できないが、でも、本番なしはあり得ないだろう、と訴え、本当に切腹覚悟のサムライ気分で座り込んだ。待つ時間は長かった。なかなか清宮さんも切腹ピストルズも帰って来ない。お客さんは、徐々に帰って行く。半分近くのお客さんがいなくなった後、切腹のメンバーが戻ってきた。

 

ぼくはサムライモードで、切腹ピストルズの隊長に詰め寄り、約束が違うと大声で訴える。隊長も役者だ。しっかり睨み返して、そんな約束は聞いていない、と大声でパフォーマンスに加わってくれる。初対面の隊長とぼくの間で、武士と武士の即興の掛け合いが行われた。それは、本当の交渉であり、即興芝居でもあった。ぼくは交渉の場に二つの要望を提示した。

 

1 「(たくさん歩いて)疲れた貝?」という貝の演奏を聞いてほしい。これは、切腹の疲れを癒すために準備したものだ。

2 表に「切」、裏に「だ」の文字を貼った巨大なうちわを用意している。それぞれの文字が出た時に、切腹ピストルズ、だじゃ研、が交互に演奏する。

 

この二つの要望を出したのは、わざわざ準備した物があり、その出番がなくて困っていることを、切腹の隊長に理解してほしかったからだ。隊長は、この二つの要望をのんでくれた。切腹のメンバーがその場に座り込み、そこに静かに貝殻の音で《つかれた貝?》を演奏する。隊長は柔軟で、「法螺貝も貝だから、入っていいんじゃないか」と指示を出し、《つかれた貝?》に切腹の法螺貝の音が加わる。静かなセッション。

 

続いて、巨大うちわでの指揮をした。「だ」と「切」の文字をうちわに貼り付けて準備してくれたスタッフのためにも、この演目ができてよかった。《だ切しょん》と名付けよう。

 

吉田ディレクターから、「時間です」の文字が見せられ、ぼくは巨大な指揮団扇をおろし、演奏が終わる。切腹の隊長と握手を交わし、演奏で見送る。交わらずに終わる瀬戸際だったが、手探りの中で交わる刹那が持てた。集まってくれた「だじゃ研」のみんなと、なんとか本番ができて、ほっとした。みんなで神社の社務所で振り返りの場を持つ。お客さんに楽器を薦めると断られるのに、貝を薦めるとやってくれる、とのこと。何か原始的な音楽のはじまりに出会うようだった、との言葉に、今日も大きな収穫のある一日だったなぁ、貝を用意して正貝だったなぁ、と思った。

 

みんな、カツカレーさまでした。